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漆黒平和団  作者: 霜降雨
1章 私たちは漆黒平和団
6/7

ドラック&シッコク

最初は練習だけで終わってしまった。

練習の汗というものはかいていたかもしれないが、特にすっきりとした感じはなかった。

放課後私は体を軽くしながら図書室へと降りていった、数人人が居るだけで静かな雰囲気だった。

あのカタカタという物音も無く、ただ独り言だけが聞こえる図書室に足を踏み入れた。

図書室へ行った理由はただ一つ、あの事件についてだ。

無数に並ぶ本棚から一つ、中くらいのサイズの本を手に引き寄せた。


「人類滅亡は遠くない!ドラック現象を徹底解明!」


誰か目を引きそうなタイトルの本を取り、仕切りで分かれた長机の端っこのいすに腰掛け、表紙をめくった。

前書き、目次・・・全てに目を追って文字を読む。

好きなお偉い著者ではない、ドラック現象は今まで目に見えてるようで見てなかった。

その文字をゆっくり・・・ゆっくり・・・意味をかみしめて文字を追う。

ドラック現象が引き起こした事件「湾岸地下鉄大虐殺事件」、ドラック現象に巻き込まれた日本人、ドラック現象であの国が消えた・・・。

皆が知ってることは興味ない、あれを探そう・・・。

ドラック現象は深刻化している、ドラック現象による経済効果、ドラック現象による死傷者の推移・・・。

目次にはなかった、中身にちょこっと乗ってるのかな?

私はそのまま各章をじっくりと穴が開くほど読んで真相を確かめた。

気づけば1時間は経過していたことだろう、でも、それくらい本を読んでた。

たぶん私はこれくらい長い時間本を読んだことなんて無かったのかもしれない。

しかし、その時間はすべて泡になってしまった。

「あっ律華!」

後ろから声が聞こえた、振り向くと叶が一つ本を片手に持ち、笑顔で私を見ていた。

「叶!もしかして叶も!?」

図書室なので声は小さめ、でも私と叶だけのように感じでしばらくおしゃべりをしていた。

「・・・へへ、やっぱ律華もか~」

「うん、もう一時間も読んだけどねー」

やっぱり叶も探していたんだ、あの事。

「この本、漆黒平和団のしの字も無かったよ・・・」

予想は出来たかもしれないけれど、やっぱり漆黒平和団のことだ。

話し声はさらに小さくなった、それはサヤカさんの言っていたことが理由。

今日の練習の最後の号令のとき言っていた言葉。

『漆黒平和団の情報は絶対に他人に明かさないように!破ったものは即座に記憶を抹消する!』

先に言ってよ!今日の朝皆で話しちゃったよ!とかいうツッコミがところどころから流れてきたが、他クラスの人には聞こえていないと信じたい。

「やっぱりかー、私も読んだんだけど漆黒平和団だなんて取り上げて無かったよ」

叶の「人類の10%しか知らない、ドラック現象の話」という本にも取り上げられていなかったらしい。

2冊も本を読んでいるのにしの字も漆の漢字も見つからない漆黒平和団、私たちだけしか知らないのかな・・・。

そうぼーっとしていると、叶が話しかけてきた。

「せっかくだし、ドラック現象のことについてもう一回見てみる?そうしたほうがいいかもしれないし」

叶らしくない、珍しい言葉だった。

けれど私もそう思っていたところだから、せめて最終下校時刻までドラック現象のことについて調べようと思った。

今日は部活もないしゆっくりとした時間が取れるしね。

お昼と夕方の境目の太陽が窓を通して照らす中、私が持ってきた本のもくじから、最初の章へ飛ばした。

世界ドラック現象とは、と大きい文字で強調された文字が目に留まりやすかった。


私が読んでみて分かったことは、ドラック現象は紛れも無く人々が薬物中毒の症状(幻覚・幻聴など)を感じてほぼ確実に死にいたる現象、前々から薄々思っていたけど病気じゃないみたい。

幻聴や幻聴の内容は人を不快にさせることとか自殺したくなる気持ちが起こるというものが多いらしい、幻聴や幻覚の他にも食欲不振や自傷行為、さらには非行を始めたり自覚なしの殺人や窃盗をしてしまうらしい。

この現象が今、私たちの周りで起きていることを知ると、やっぱり怖いしなんだか不思議だなぁ。

でもお母さんやお父さん、私の弟、そしてクラスの皆、こういう人はいないなぁと思い、ほっとしていた。

「・・・いやだなぁ」

けれど叶は私の後ろで呟いていた。

どこで発生したのかはわからないけれど、パンデミックよりも遥か上だと感じるぐらいの脅威のスピードで各国を洗脳していて、少なくとも初日には2国の国民全員が死亡したらしい。

国って少なくても何万人とかそういう値でしょ・・・?怖いなぁ。

そして世界最大の国にまで影響をもたらし、ほぼ一週間から二週間で国が無くなってしまった。

それは私たち全員が知っていると思う、無くなってしまった国を中継で見たけど、有名な記念物には多数の落書きがしてあって・・・地面は規制されててよく見えなかった、きっと見てはいけないものが・・・。

その事件を見たお父さんはテレビに釘付けになってた、お母さんも驚いて倒れていた、小学生の弟と再来年中学生になる私も、面白いテレビをやってるわけじゃないのに・・・釘付けになっていた。

日本は唯一ドラック現象が深刻化していない国と言われている・・・そんなの嘘だ。

そう思ったのは私だけじゃない、この国の国民全員だと思う。

もちろんそんなことはないとこの本にはちゃんと書かれている、少々影響は出ているぐらいという言葉だけだった。

なぜここだけ無事なんだろう・・・その理由は薄々分かっていた、専門家じゃないけど、私たちだけが知っていた。

ここで30分くらい時間が経っていることに気づいた、ちょこっと意味不明で結構な量の文字を頭に入れたと思う。

「眠いかも・・・」

「起きて!大丈夫だよ!」

叶が起こしてくれたから一時はもった、けれど、これだけの情報があるからくらくらするなぁ。

もちろん、日本では少々の被害しかなく目立たないということじゃない、私たちを呆然とさせた事。それはドラック現象が引き起こした日本人の事件、湾岸地下鉄大虐殺事件。

日本でドラック現象が関わったとされる有名な事件、その時私は何をしていたっけなぁ。

たしか7月9日正午ごろ、東宮都の湾岸の地下鉄で起こった連続殺人事件、被害者は20名で重軽傷者は34名、しかも犯人は女子中学生、今の私たちの年らしい。

私たちの中でこんな事件を起こす人が居るなんて考えられない・・・そういう人が居たことに私はとてもびっくりした。

どうやって殺したのかというと、ナイフで一刺し・・・二刺し・・・もう考えられない・・・。

ナイフを両手に持って、初心者が動かす暴れたマリオネットみたいに狂い、たくさんの人を殺したらしい。

彼女は、裁判の休憩時間にひっそりと弁護士と一緒に死んだらしい。

この事件はしばらく世間の話題の筆頭となって、ドラック現象の危機はもう近づいているぞ!と私たちを脅していた。

「・・・」

私はゆっくりと本を閉じた、叶は目を大きく開けて恐怖を感じている。

けれど声は出さずに、無言だった。

図書室は完全に静まりかえってしまった。

「・・・ところでさ」

叶は私の隣に座って話しかけた。

「私たち、不思議な存在なのかもね」

「・・・まあ、ドラック現象と関わってるからね」

話はテンポよく進まなかったが、淡々と喋っていた。

夕日で赤くなる景色がアクセントになり、さみしく、しみじみとした感じになっていた。

そんな場面じゃないのにね。

「そろそろ帰らなきゃなぁ」

叶はさっき座ったばっかりのイスから体を離して、さっきよりも元気な声で呟いていた。

時計の時間は5時を回っていた。

「そうだね、お母さんに怒られちゃうかも」

私も席を立って本を戻しに本棚へ向かった、本がぎっしりと詰まっていたところから取り出したため、重い感じがするがしょうがないなと感じ、無理やりでも本を戻した。

リュックを取りに戻った教室には誰も居なかった。

赤っぽいオレンジの光がまた明日と問いかけているように教室を照らしていた。



「ところでさー俺、最近変なのが見えるんだよなー」


「やめろよーこんな時にー!」


「大丈夫大丈夫、たまたま見えるだけだし、貧血気味かもしれないし」


「はぁ・・・どういうのが見える?」


「小人・・・小人かなぁ」

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