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DOG RUN  作者: 鮫島あーろん
七・一七争乱篇
7/30

闘争メロウ

◆登場人物

世鬼征介セイキ セイスケ

駆逐隊の精鋭部隊「セブンスブラック」の若きエース。平秀の幼馴染で、恋の婚約者。

高圧電流を精密にコントロールできる。


乃木希彦ノギ マレヒコ

レトリバー第39番小隊副隊長。もっぱら事務や庶務をこなす物静かで穏やかな老人。

5.闘争メロウ



遅い。



遅い。大遅刻だ。



平秀は腕時計に目をやりイライラと足踏みをする。



その3メートル左には鎌瀬が足を組んでそっぽを向いており、二人の相容れぬ壁の真ん中で桜香は座り込んで任務資料を見直していた。




「あのヤロ!もう40分経つぞ」




平秀が声を荒げる。



「そうね」



桜香は気の無い声で返事して、資料をパタンと閉じた。




「でも、隊長が遅刻しない時なんてあったかしら?」



「今までとは違うハズなんだろ、あいつの話じゃ」



大見得切った当の本人がこの調子ではせっかくのやる気もダダ下がりである。




7月17日土曜、午前10時。



場所は都内の約5分の1もの面積を占める日本最大の学府、東城学府の中央広場。



広場と言ってもその辺の公園の広場とはわけが違う。



優に三万人は楽々入れるだろう巨大なコンクリートの園。



広場の中央部にかけてすり鉢状に階段が連なり、最下層に設けられたステージを見下ろせる格好だ。



普段は大物ミュージシャンやらがライブ会場として使ったりしているが、今日この日ここでは日本史上でもかなり異例な政治集会が行われようとしているのだから広場の混雑や喧噪もいつもとは毛色が違う。



それぞれの主張を記したプラカードを掲げる人々、大衆に訴えようとメガホンに声を張り上げる活動家、飛び交うビラ。批判中傷罵り合い。



そして救いを売り文句にする宗教の数々。



そんなカオス真っ只中の中央広場に、レトリバー第39番部隊「実戦担当」の3人は、居た。




「あーあ、退屈だ」




新入りのかませ、もとい鎌瀬が欠伸する。




「任務だとか聞いてきてみたものの、大したことないもんだ」




「・・・そういやお前にまだ肝心なこと聞いて無かったよな」




平秀が睨みつける。




「お前、ついこないだまでキャッツのヘッドやってて捕まってたんだろ。何で釈放されてしかもドッグスの一部隊に配属されてんだよ」




「釈放?バーカされてねーよんなもん」




「は?何だそれ」




「教導院様の『再教育』なんだとよ」



「・・・大方、アンタの父親の権力でしょうね」



桜香が言う。



「事務次官の父親が司法関係に便宜を図って特例としてアンタの罰をドッグスでの実戦任務に代えさせたってところでしょ。ついでに更生も、って事で。いい父親かもね。事務次官としては失格だけど」




「流石アネゴ、分析が速い!大体そんな感じです」




鎌瀬が何度もうなずく。この態度の違いは何なのか。




「気安く呼ばないで」



桜香がピシャリと言った。



「アンタのことはまだ許してないし、信用もしてない。私の弟子を名乗るならそこのバカをボコボコに出来るくらいドッグスで経験と修練を積んでからにしてちょうだい」




「うわっ、クール!惚れる、というかもう惚れてる!必ずやアネゴのお期待に添うべく奮戦しますっ!」




「おいちょっと待て、バカって俺か?」




「他に誰がいる?発火術者(パイロキネシスト)にロクな装備も無しに真正面から突っ込んで。コイツがちょっとでもできる奴だったらアンタ焼け並木になってたわよ?ウチで一年間何やってたの?」




「うっせーよ!あと何だよ焼け並木って!」




「あら、名前で呼んでほしかったのかな『ひらしゅー君』?」




「お前ともどうやら決着つけなきゃいけねーみたいだな」




「やってみる?枯れ並木ができあがっちゃうけど」




「てめえ――」




レトリバー第39番小隊。



決戦当日の朝にもなって、彼らの間からは不協和音が大音量で響き渡っていた。




「おっす、待たせたな悪い悪い」



ギスギスしている3人の前に現れたのは39番小隊の潤滑油、というか灯油。



遅刻の隊長、犬飼ツヨシは見慣れないオリーブ色の隊服に身を包んで小走りで3人の前に立った。




「おい何やってんだてめえ、言い出しっぺが大遅刻しやがって」



「いやーごめん、こいつの手入れに手間取っちゃってね」



犬飼は怒る3人をニコニコとなだめ、腰から銀色の銃を取り出し、指でトントンと叩いた。




「電子銃?」



桜香が訝る。




「変わった武器ですね」



電子銃は電磁投射砲、つまりレールガンの原理を応用してコンパクトな拳銃に組み込んだ武器だ。



発砲時の反動がかなり小さく誰でも扱え、弾道もブレず威力も申し分なし、と開発された当時は新時代の武器ともてはやされた。



が、充電がこまめに必要だったり、精密機械なので動作不良を起こしても即座に修理が出来ないなど、過酷な戦場で活躍するには余りに手間がかかりすぎたため、結局軍の発注が無くなった悲劇の一品。




「ん、お気に入りでね。手間のかかる子ほど愛着わくというか。それに火薬の銃は手首が痛くてかなわん」




犬飼はそう言って細腕をひらひらと振る。



「ま、その他にも色々大人の事情があったのよ。遅刻はこの通り、謝る。でも今は時間が無い」




犬飼は3人を見渡し鼻眼鏡をクイッと上げる。




「諸君、戦争の始まりだ」



「聞きたいこと、話したいことはたくさんあるがもう動かなくてはならん。とっとと持ち場に移動だ」



歩きだす犬飼に続いて、3人は会場の中央部に向かった。



既に会場はたくさんのギャラリーに埋め尽くされていた。



普段は開放してある広場は柵によって仕切られ、入り口では平秀達と同じオリーブグリーン隊服のレトリバー隊員が手荷物検査を行っている。



学府内ということもあり、そもそも中に入るのに身分証が要る上辺りに狙撃に使えそうな高い建物も無い。



このような集会の会場としては、まあ適当というわけか。




「打ち合わせ通り俺らのポジションはステージ右前A-2エリアだ。まずは一緒に仕事する奴らと合流しなきゃな」



顔をしかめる平秀に犬飼はニヤッと笑う。




「そう、駆逐隊(シェパード)第7中隊『セブンスブラック』の皆さん方だ」



そこら一面にシェパードの黒い隊服の隊員達が、忙しく準備に駆け回っている。



オリーブグリーンの三人は向けられる冷たい視線と張りつめた空気に、一瞬にして逃げ出したくなるような場違い感を受けた。




「犬飼くん、待っていたのです」



不意に呼び声がした。



声の主を探して、周りを見渡していたが、ふと視線を落とすとその声の主らしき人物がこちらに走ってきているのが分かった。



若い女性だ。



しかも、えらく小さい。



身長は140センチを越える程度か。



そんな小さな、女の子という表現も合いそうな女性の胸元には金色に光るバッジ。どうやら管理職のようだ。




「お忙しいところ、参陣感謝です。レトリバー第39番小隊の皆さん、歓迎しますよ」



女性は敬礼してそんなことを言うとニコッと笑った。



「いぬかい・・・くん?」



慌てて平秀らも敬礼するが、別な理由で、犬飼はこの小さな司令官に面食らったようだ。




「ず、随分丸くなってるみたいですね」




「そう?犬飼くんは変わりないようでなによりですよー」



ニコニコして返答すると、再び背筋を伸ばして挨拶をする。




「隊員さん方は初めましてですね。私は駆逐隊(シェパード)第7中隊セブンスブラック隊長を務めてます、千々石千羽(チヂワ チハ)といいます。士官学校で犬飼小隊長の先輩だったです」



この人があのドッグスきっての実力者揃いの第7中隊セブンスブラックの隊長・・・?



そんな思いであっけにとられる3人とはまた違い、犬飼は「何だこの不気味な生き物!?」といった怪訝な様子でその愛嬌たっぷりの小さな隊長を見下ろしていた。




「おい誰だこれ・・・『デーモンチワワ』の異名で恐れられた狂戦士千々石先輩はどこだ?」




「む!!なんですかその失礼な二つ名!そんな呼ばれ方されたことないです」



そう呟いて後退る犬飼に千々石はムキッと反論する。



「おい誰だこれ・・・『デーモンチワワ』の異名で恐れられた狂戦士千々石先輩はどこだ?」




「む!!なんですかその失礼な二つ名!そんな呼ばれ方されたことないです」



そう呟いて後退る犬飼に千々石はムキッと反論する。



「確かに昔少々やんちゃしてたことは認めますが、もうバーサーカーからはジョブチェンジしたのです。今の私は癒し系白魔導師なのですよー!」




「はい?殺し系グロ魔砲師?」




「むーっ!だから何なんですかその私に対するものすごい偏見!改めなさい、改めなさいーっ!!」




「・・・てかお前士官学校アカデミー出てたのかよ、信じらんねー」




平秀が驚くと犬飼は得意気に笑った。




「だから言ったろ?エリートだって。って言ってもまあ、エリートの端くれの落ちこぼれだったんだけどな」



「お前を卒業させた士官学校を疑うわ」




「キツいねー。まあ、ギリッギリで卒業出来たんだけどな。おかげで俺はこんな閑職でお前らの相手してるわけで。その点この先輩は本物のエリートだ。20代でシェパードの一隊率いるなんて前代未聞じゃ?スゲーっすわやっぱり」




「褒めて誤魔化さないでください!・・・無駄話はこのくらいにして、そろそろ任務の話に移りたいんですがねー」




千々石がムスッとした様子で言葉を切る。




「あなた達にこのブロックでやってもらうことなんですが、まず――」




「失礼します。千々石司令、緊急です」




千々石が話し始めた途端、横から一人の男性隊員が駆け寄り話を遮る。




「狙撃防止用に手配していた舞空術者ですが、出動途中で事故に遭い、配備が不可能に――ッ!?」




険しい表情で報告していたその男と、平秀の目が偶然合う。




その瞬間、二人の口から驚きの声が漏れる。



「お前!」




「・・・ヒラシューか。久し振りだな」




平秀のことをヒラシューと呼ぶその男は、そう言って正面に向き直ると、平秀とその仲間たちを値踏みするようにずいっと一瞥した。




「征介くん、お知り合いなのですか?」




「はい」



驚く千々石に、素っ気なく答える男。




「えっーとですね、こちら、私の右腕!世鬼征介(セイキ セイスケ)くんです。・・・そちらの男の子は知り合いみたいですね」




「並木です」




平秀が答える。




「まあ、幼馴染みみたいなもんです」




「そうですか!征介くんにも幼馴染みとかいるんですね、驚きです!」




「どういう意味ですか司令?」




征介は千々石を一睨みする。




「そんなことより、先程の件、指示を」



「ああ、それなら心配ないのですよ」




「と、言いますと」




「こちら、愛上桜香さん!資料によるとかなり高レベルな舞空術者なのです。元々バックアップを務めてもらうつもりでしたが、そういうことなら彼女にウインドシールドのメインをやってもらうです!」



千々石は手元の資料に目を通してそう言うと、桜香の方を見てニッコリする。




「やっていただけますよね、愛上さん?」



「え!?わ、私は・・・」




桜香が狼狽する。




無理もない。桜香がウインドシールドなど張ろうとしようものなら会場はさながらハリケーン直撃状態になることだろう。




「あー、悪いっすね。多分それちょっとこいつには荷が重いっすわ」




犬飼がフォローする。



桜香は少しうつむいて顔を赤らめた。




・・・まあ、狙撃自体は完璧に防げそうな能力ではあるのだが。



「そうですか?・・・むむ、仕方ありませんねー、ならウインドシールド自体中止で。狙撃については私がカバーしますです。そゆことでお願いしますです征介くん」




「少々守備範囲が広すぎるのでは?他に誰か増援を――」




「外部に任せて何か事があるといけませんから。私のことなら心配無用です」




「・・・了解しました。そのように。では失礼いたします」




征介はキリッと敬礼し、持ち場に戻る。




「おい、ヒラシュー」




戻り様に立ち止まる。




「あれから5年も経ったが・・・お前が何をしてきたのか、何ができるのか、俺に示してみろ」




噛み潰すようにそう囁くと、陣営へ足早に去っていった。




「俺様の第六感が告げている、あいつはヤな奴だ」




ずっと黙っていた鎌瀬が口を開く。




「お前ほどじゃねーけどな」




平秀は征介の背中を睨む。




「まあ、ライバルキャラなんてのは昔から、大体ヤな奴だ」



征介の背中は、警備部隊の喧噪の中に消えていった。



平秀は思う。



自分がこれまで戦ってきたのは何の為か。



市民の平和を守るとかいう直接的なようで概念的な理由ではない。



もっと本能的、かつ具体的なもの。



自分の為?それとも――




「よっしゃ行くぞテメーら、ボヤボヤすんな。戦争だ」




犬飼が歩き出す。




その背中を慌てて追いかけた平秀の眼下には、善悪入り混じる人々の熱気と、その中央にそびえる白亜の演説台が見えた。



この演説で何が起きても、起きなくても何かが始まるように平秀には思えた。



それが世界を変えるものか。自分を変えるものか。



そう思わせる異様な空気に包まれた、7月17日東城学府中央広場。



闘争の機は熟した。



まずは小さな戦争から、始めよう。




レトリバー第39番小隊は足早に、戦いの渦へと身を投じた。




—次章に続く—

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