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DOG RUN  作者: 鮫島あーろん
プロローグ
1/30

爆炎ダウンタウン

1.爆炎ダウンタウン


その少年、並木平秀(ナミキヒラヒデ)は猫に追われて、深夜の路地裏を爆走していた。



「猫に追われている」と言うと、なんだかのどかな風景なのであるが、この猫は我々が知っているあのニャンと鳴く可愛いぬこ様ではなく、野良猫であった。

それも揃いも揃って雄猫である。

もっと言えば、その野良猫は二足で息を切って走り、それぞれに鉄パイプやらバットやら武器を片手に、目を血走らせて平秀を追いかけている。

つまり有り体に言うと、野良猫は人間だった。



「ゴラァァ!待たんかワレェ!」



(待てと言われて待つ奴がいるかよ!)



ましてや武装した筋骨隆々の野郎共に追いかけられているのである。

とは言うものの、この並木平秀の姿もまた、その辺の学生とはひどく違ったものだった。

学ランを着てはいるものの袖口から覗く手には明らかに戦闘用と思しき衝撃吸収甲(プロテクター)が銀色にちらついて光る。


そして眼光は安穏とした日常に生きる学生のものではなく、前線で戦う兵士のように鋭く、研ぎ澄まされていた。

それが「平秀」という、まるで戦国時代にでも生まれたような名の少年だった。



(遅い!)



素早くビルの隙間に潜り込んだ平秀は、苛立しく小型の無線を指で叩いた。

この辺りは寂れたオフィス街の裏通りだ。

日中こそちらほらとビジネスマンが表通りを行き来するが、この時間になると人っ子一人見当たらない。


入り組んだ構造のこの裏通りは、反教導院派の無法な野良猫達の格好の住処となっていた。

もっとも、だからこそ人っ子一人居ないのかもしれないが。



「犬飼のヤロー、何してやがるんだ」



再度呟く。が、無線機は沈黙したままだった。

そうこうしている間にも足音が近づいてくる。



(四、五人・・・いや、もっとか?)



平秀は耳の後ろの辺りを掻きながら思案する。どうも最近手癖になっているようだ。

カツカツと無線機を指で叩いてみたその時、さらに背後からも足音が迫ってきた。



「二ケタ確定、か」



タラリと流れる冷や汗。無機質な金属のように冷然と、逃げ出したくなる現実はすぐそこに迫る。



「おいおい一人かよ」



闇の中からヌッと顔を出した「猫」達は、揃いも揃ってデカブツぞろい、めいめいに金属バットに鉄パイプ、メリケンサックを握りしめ、下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。




「ドッグスはえらく人手不足だな」



平秀は耳に当てた左手を下ろし、大勢やって来た野良猫たちをずいっと見回した。




「その通り。生憎と学生崩れの野良猫共に人数かけるほどウチも暇じゃなくてね」



「ヘッ、ただの探索隊(レトリバー)がデカい口叩きやがる」




目ざとく平秀の腕章を見つけた男が(わら)う。




「そ。でもお前らも似たようなもんだろ?まあ雑魚キャラは雑魚キャラ同士、仲よくしようじゃんの」



「んあんだと!ふざけやがって!・・・いいか、お前ら絶対逃がすなよ」




男が唸ると、平秀を囲む輪が少し狭まった。

しまった、と思う。自分でもアドレナリンが出てるのか知らないが、つい口調が挑発的になる。

今さら後に引けない。こうなりゃやけだ。平秀はムキになる。マジになる。




「想能力じゃなんじゃ知らねえが、そんなもんでこの人数の相手できると思ってんのか?」



「・・・まあ実のとこ正直あんま戦いたくないんだけどね、今から謝れば許してくれる?」




平秀は拳を突き出してニヤリと笑う。



「でもなんかそれもめんどくさいし、そっちにお任せするわ」



そして、突き出した拳を翻し、親指を下に向けて見せた。

男の顔色が変わる。



「野郎ふざけやがって、お前ら、ブッ殺しちまえええええ!!」



号令一下、両脇の男二人が目を血走らせて襲いかかってきた。

平秀は左足を下げ、腰を落とす。

スッと頭を空っぽにする。それを一瞬で済ますと顔を上げ、迫りくる敵を睨む。


ふそして、たった一片の言葉を、噛み締めるように、呟く。




「<犬モ駆ケレバ>」




---頭の奥底で何かを封じていた重い錠。


それがガチャリと音をたてて外れる感覚がした時、平秀の体は既に動いていた。


男が大きく踏み出し、金属バットを脳天めがけて降り下ろしてくる姿が、まるでスローモーションのように見えた。


平秀は軽く地を蹴り、後ろに跳んだ。


その瞬間、男の金属バットは空しくアスファルトを叩く。




「あ・・・れ?」




男は目を丸くする。


確かに一瞬前まで目の前に居た人間が、5メートルも後ろで不敵に笑っているのだ。




「余所見してていいの?」




平秀はそう言うと、今度は前方に向かって軽く地を蹴り、同時に少しだけ、拳を前に突き出した。

それだけだった。

瞬きする間もないその刹那。

平秀のプロテクターで固められた拳が、男の腹に深々と突き刺さっていた。




「ぬごぉぉ!」




くの字に折れた男が呻く。

平秀はそのまま右足を軸にひらりと身を翻し、その勢いで左足を浮かせる。

白い閃光が走ったかと思うと、今度はもう一人の男の側頭部に、鋭い蹴りが浴びせられた。




「ふ!?」




驚き余ってすっとんきょうな声を上げると、二人の暴漢はほぼ同時に、地面へ崩れ落ちた。



「は・・・?」



野良猫達の大将の口元は半開きだ。

ほんの一、二の三くらいの時間で、二人の部下をノックアウトされたのだ。



「野良猫は番犬に勝てない、だろ?」



平秀が正面に向き直る。



「それならそうとおとなしく、掃き溜めの巣でおとなしくゴミ箱でも漁ってるんだな」



一歩、歩み寄る。


男の目の光は驚きの色から、見る見るうちに恐怖の色に変わった。


腕を振りかぶる必要は無い。

腰をかがめて足を踏ん張る必要もない。

少し地を蹴るだけ、拳を前に差し出すだけ。

それだけで平秀の体は、拳は、空を切る音さえも置き去りにして―—


―—加速する。


 バチィン!!という破裂音。

平秀の鉄拳が、男の間抜け面の贅肉を、したたかに撃ち抜いた。

そのまま男は恐怖と苦悶を顔に張り付けたままゆっくりと――

――平秀が速過ぎただけかもしれないが、コマ送りのようにゆっくりとアスファルトに大の字に倒れた。


何かがざわめくような沈黙が、路地を覆った。

平秀は、少し拳についた血を払うと、また一歩前へ進み出た。

その目は無言で「まだやるか」と、追い詰められた野良猫たちに告げていた。


包囲全体が、ギクッと後ずさりする。

その中の一人が踵を返して逃げ出した。

するとそれを皮切りに、一人、二人、五人と、蜘蛛の子を散らすように男たちは走り去っていった。



「やれやれ・・・<岩ヲモ砕ク>」



そう呟くと、平秀は肩を落とした。

ぼうっとした脳内に、現実が戻ってくる。

無線機は依然として、何の反応も示さない。



「無許可能力行使・・・こりゃ面倒なことになるかも」



そもそも許可を取ろうにも無線が繋がらなかったのだ。



「これで処分とか絶対ヤなんだけどなあ」



平秀は自分の上官のものぐさを呪った。

今にも想能力の「臭い」を感知した駆逐隊(シェパード)がやって来るだろう。



「まあその時は、きちんと説明すりゃなんとかなるか・・・」



ため息を一つ吐くと平秀は、職務怠慢な第39番探索小隊長に罵声の一つでも浴びせてやろうともう一度無線機のスイッチに手を伸ばした。


その時。


平秀は自分の背後に、灼熱を帯びた気配を感じた。



「・・・ッ!?」



本能だった。


平秀はとっさに横っ飛びに地を転がった。

もと居た場所にオレンジの閃光が弾け、激しく火花を散らす。

突然の敵襲に思わず固まる平秀の耳に、朗々とした声が飛び込んできた。



「ほう、よくぞ俺様の『瞬獄業炎斬(ヘルフレイムエッジ)』をかわした」



声のした方を振り向くと、ビルの外階段、踊り場に一人の男が立っていた。



年の頃は平秀と変わらないように見える。

全身黒の服装に銀髪、シルバーアクセサリーをジャラジャラとつけたその少年は、平秀に指先を向けたまま、傲然と手すりにもたれかかっていた。



「俺様の領域(テリトリー)を侵したばかりか、手駒(ポーン)たちをも手にかけるとは、貴様、いい度胸をしているな」



なにやらカタカナ語が聞こえてくる。平秀は地面に転がってのびた、三人の男に目をやった」



「お前がこいつらのヘッドか?」



平秀はその不審な少年を見上げ言った。



「その通り。なにやら賊が入ったと聞き、排除(パージ)せよと命じて晩餐を楽しんでおったらこの様だ。後で『しかるべき懲罰ディステニー・パニッシュメント』を与えねばなるまい」



(・・・なんだこいつ??)



再びよく分からないカタカナ語を朗々としゃべり、少年はニヤリと嗤った。


・・・確かにその口元にはソースがついていた。



「おいおい中二病こじらせてんのかよ。・・・想能力者ってことは、どっかの学府から逃げて来たのか。どこだ?」



「中二ではない、十八歳だ」



少年は少しイラついたように反論した。



「そうじゃねーよ、中二病かって言ってんの」



しっくりこない緊迫感にイライラしながら平秀も言い返す。



発火術者(パイロキネシスト)ならそれなりのクラスだろ?反抗期にしちゃやりすぎなんじゃねーの?親泣くぞ」



「黙れ!教導院に飼われた駄犬がほざきおる」



少年は声を荒げた。


「世界を圧政の下に支配する巨悪にへつらう犬どもめ!我らは街を跳梁する野良猫ではない!この歪んだ世界を正しき形に戻すため抗い続けるレジスタンス!気高き獅子なのだ!」



「・・・その歪んだ世界を少しでも歪まないようにすったもんだしてるのは誰だと思ってるんだよ」



平秀の声にため息が混じる。



「そのテの正義ごっこはもう見飽きたんだが」



「フン、心象開発の過程ですっかり洗脳されたか、弱い男め」



「自由、解放ともっともなことを言いつつ、やってることは不良に毛が生えたようなもんだろ」



「貴様、俺たちの革命を侮辱するか」



声に怒りをにじませながら、少年は階段をゆっくりと下ってくる。



「なら思い知らせてやろう。ここからはザコ共ではない、帝王(キング)が相手だ」



「本格的に頭沸いてるなあお前」



「黙れ、俺様の名を教えてやろう。・・・『赤炎の狩人』鎌瀬剣(カマセツルギ)とは、この俺様のことだぁぁぁ!」



「・・・かませ犬?」



平秀が呟くと、とたんに鎌瀬と名乗った少年の顔色が、炎の如く真っ赤になった。



「か、かませ犬ではない!鎌瀬だ!!」



「え、かませじゃん?」



この一言でどうやら鎌瀬は、キレた。



「こ・・・んの、貴様、愚弄しおって!!死ね!死んであの世で非礼を詫びるがいいっ!」



言うが早いや、鎌瀬は猛然と階段を駆け降り始めた。



「燃え付け・・・」



とっさに平秀も構える。



「燃え付け、灼け付け、煌めけ爆ぜろ!<刈リ取レ爆炎>!!」



鎌瀬が叫んだ瞬間。


煌めくオレンジの爆炎が、鎌瀬の右の掌に灯った。



「後悔するなよ駄犬ーッ!!」



幼稚な男だが、今までのごろつきとは違う。

自分と同じ、本物の想能力者。

気を抜けば、本当に死ぬ。

スッと目を閉じ、心を空に。

脳の深層の心象風景を、現界させるために。

そして、平秀も「鍵」の言葉を唱えた。



「<犬モ歩ケバ>」



唱えた瞬間。平秀は五感で感じとる。


体が、心が、エンジンのように駆動し震えているのを。


――いつでも、アクセルを踏み出せる感触を。



「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろぉぉぉ!!」



鎌瀬が一気に階段から飛んだ。


手から流れ出す炎が円弧を描き、そしてそれは、大きな鎌の刃の形を成す。


「刈り取れッ!肉片残さずッ!!」



鎌瀬が鋭く腕を振るう。


赤く燃えたぎった炎の大鎌が、平秀の命を刈り取らんと襲い掛かってくる。


平秀は横に跳んでそれをかわす。




「ドラアァァァァ!」



平秀は急停止すると、鎌瀬の懐目がけて、思い切り地を蹴った。




「かかったッ!」



「な!?」



鎌瀬が両手を広げると、炎の大鎌は瞬時に円環に姿を変え、鎌瀬を守るように囲った。




「~ッ!!」



平秀はすんでのところで左に軌道をずらすも、右腕に鋭い痛みが走る。


わずかにだが、かすってしまったらしい。



「逃がすかッ!」



今度は炎がロープのように伸び、平秀の足元を薙ぐ。


平秀は大きく後ろに跳んでかわしたが、今度は靴の爪先を灼熱の鞭が撫でる。


思わず背中から冷や汗がどっと出てくるのを感じた。



「身体の直線運動を爆発的に加速させる能力と見たが」



鎌瀬はグルングルンと炎の鞭を頭上で振り回しながら、迫る。



「確かに、速い。見てからじゃとてもかわせない。だが、加速させる前のモーション!その初速!急停止の直後!ベクトルを変える瞬間!これは普通の速度だ。違うか?」



(こいつ・・・見てたのか)



観察している。おそらく、さっきのごろつきを倒している時から、あの階段の上で見ていたのだ。



「・・・ガチでやらないとマジで死ぬな」



平秀は息を整えながら呟く。



「ならば、動かせない!死ねええ!!」



鎌瀬が叫ぶと炎の鞭が千々に裂け、今度はその一つ一つが鋭い刃を象り――



瞬獄業炎斬(ヘルフレイムエッジ)!!」



――オレンジの閃光となって平秀の正面、左右、上空、広範囲に飛んだ。


平秀は迷わなかった。



足元のアスファルトが砕けて砂利状になったものを一掴みつかむと、鎌瀬に向けて大きく振りかぶる。



「な!?」



鎌瀬の顔色が変わる。



「ドオリャアアアアアァァァァァ!!」



そしてそれを、全力で前方に投げ放った。


腕の強力な加速力を借りた砂利は、音速をも超える散弾銃の弾丸と化し、無防備な鎌瀬に襲い掛かる。



「見切ったアアァァッ!」



だが鎌瀬は平秀が砂利を振りかぶるのを見るや否や、飛び散る火炎弾を引き戻し、前方に大きな炎の壁を現出させる。



「その程度ッ!焼き消すッ!」



現れた炎の壁は、その言葉通り石の弾丸を溶かし、砕き、消し飛ばした。



が――。





「・・・歯ァ食いしばれエエェェ!」




炎の壁の真上。


拳を握り固めた平秀が、既に宙を舞っていた。



息を飲む間も無かった。




炎のカーテンにさえぎられた鎌瀬は、平秀の動きに気付けなかった。


平秀もまた、鎌瀬の弱点・・・操る炎の量に限界があることを見抜いていたのだ。


自由落下の力も借り爆発的に加速した平秀の拳が、鎌瀬の右頬に炸裂する。



「んぶへらッ!!」



鎌瀬は後ろ様に吹き飛び壁に叩きつけられる。


骨が軋む音がした。



「~ンッ!!」



平秀はそのまま鎌瀬の右で首根っこを掴み、持ち上げた。



「よーく、覚えとけっ!」



今度は平秀の左が飛ぶ。



「なーにが、正義だっ!なーにが、獅子だっ!」



続けて、平秀の左フックが突き刺さる。もはや、能力は使っていなかった。



「お前なんか、自分の世界ほっぽり出して逃げた、ただの、小さな、野良猫だ!」



鎌瀬の顔がどんどん青く腫れ上がっていく。



「教導院が正しいかなんて知らねえ、お前らが言ってることが善かなんて知ったこっちゃねえ!」



平秀は手を止め、襟首を掴んだまま鎌瀬を睨む。


鎌瀬の目が見開かれる。



「ただこれだけは言える、口でああだこうだと並べ立て、群れて馴れ合うお前らよりっ!歯ァ食いしばって、足踏ん張って、自分の手の届く世界必死で守ってる奴の方が、何倍も!強くて・・・正しいっ!!」


止めとばかり、平秀は左の拳を最上段に振りかざす。



その時。




「<サクヤコノハナ>」




季節外れの桜の花びらが、ひらりと舞い落ちた。



と次の瞬間、強烈な桜吹雪の渦が平秀の体を捉えたかと思うと、平秀は五メートルほど横に、無様に吹き飛ばされてしまった。



「な!?」



「・・・並木、あんたってそんなに熱血漢だったっけ?」



呆れるような声と共に、その桜色の暴風の使い手は、闇夜にスッと降り立った。


「その情熱を少しは日常の任務にも向けてほしいところなのだけど」



聞き慣れた声の主。


栗色のポニーテールを夜風にたなびかせ、転がる平秀を見下ろすその少女。


教導院特殊治安維持隊第39探索小隊隊員、平秀の同僚、愛上桜香(アイウエオウカ)だった。



「な・・・・何すんだよ!」



平秀は驚きもそこそこに怒鳴る。



「・・・教導院特殊治安維持隊隊規、第5条第1項、隊員は総督部部長にしかるべき事由を説明した上で武力行使の申請を行い、許可される場合のみ、武力たる銃火器、VV指定以上の想能力の使用を認められる」



桜香はあまり感情のこもってない声でさらりと言った。



「・・・但し隊員、及び市民の生命に危機が生じた時等、火急に武力行使が必要と認められる場合はその限りでない」



平秀は反論するように法規の続きを暗唱した。



「無線が繋がらなかったんだ、巡回中に連中に見つかって・・・火急だっただろ?」



「そうね。でもこんなダウンタウン深部は、アンタのパトロールコースからずいぶん外れてるけどね」



平秀はさらに反論しようと口を開いたが、桜香がゴミを見るような目でこちらを見ているのに気づき、やめた。



「命令違反、職務逸脱。街に蔓延るキャッツの掃討はシェパードの管轄です。レトリバーのアンタ一人が火をつけて、一般市民に危害が及んだらどう責任取るつもりだったんですか?」



桜香は丁寧な口調で、しかし平秀を追い詰めるような迫力を込めて言った。



「ごめん、ごめん俺が悪かったって・・・考え無しで」



「申し開きはお偉い様の前でどうぞ。・・・ともかく、アンタはもう手を出さないで」



桜香は壁に寄り掛かって動かない鎌瀬に歩み寄る。



「動ける?」



桜香が呼び掛けると、鎌瀬はわずかに呻いた。



「あら、まだ意識あるのね。・・・とはいえこの脳震盪(ノウシントウ)状態じゃとても想能力は使えないでしょうけど。じゃ、止め刺しましょか」


桜香がそう言うと、鎌瀬は小さく悲鳴を上げた。



「おいおい、手柄横取りする気か」



「・・・いえいえ、大将首はアンタにあげる。じゃないとこの無謀な冒険が無意味になっちゃうもんね。それは勘弁したげる。・・・じゃあ、一瞬で終わらせるからね」



桜香の手の中で小さな竜巻が唸りを上げる。



「・・・やっぱお前は止めといた方が――」



並木平秀は知っている。


この風使いの最大の難点を。


舞空術(エア・ラダー)」は大気の流れを操る想能力。


その名の通り風を使って飛行したり、時には圧縮された空気弾で敵を牽制したり、竜巻で無傷で相手をからめ捕ったりと、どちらかと言えばサポートに秀でた術。


しかし愛上桜香は違う。


舞空術者でも一際特別で、一際流麗な桜吹雪を顕現させ操る彼女は、空を飛ぶことも、小技でサポートに徹することはしない。というか、出来ない。


桜香の術はただひたすらに強く、激しい暴風を起こし、相手を地平線までも吹き飛ばす。



パワー特化の暴風女。



「・・・歯を食いしばりなさい」



桜香の髪が大きく波打つ。



「ハアアアアァァァァァ!!」



そして腰を落とし、桜香は小さな右手に乗った、小さくも激しく猛け狂う台風を、鎌瀬の鳩尾にブチ込んだ。


ブワッと強い風圧と共に、桜の花びらが奔流のように辺り一面を覆い尽くした。


烈風が吹き止むと、そこには壁に食い込み、筋一本動かさない鎌瀬の姿があった。



「・・・ちょっとやりすぎたかな」



「ちょ、お前、どう考えてもやり過ぎ――」



平秀が口を開いたその時。



「そこの二人、動くな」



黒い隊服に身を包んだ屈強な男五人が、三人を取り囲んでいた。




・・・能力使用取締のスペシャリスト、シェパード部隊の到着だった。



—次章に続く—

ごあいさつ


この度「DOG RUN」を読んでいただきありがとうございます。


この小説はSF&超能力バトルを題材にしています。

長くなるかと思いますが読んで面白い作品を目指していきます。


また、この小説ではルビ機能を使用しています。うまくルビが見えず、気になる方はパソコンからの閲覧をおすすめします。


最後になりましたが作者は気分屋かつ豆腐メンタルなので、面白いと思っていただけたなら、感想等書いていただくと執筆意欲が上がりますので是非お願いします。


2013.03.22 鮫島あーろん

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