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ダイイングメッセージはミチ

掲載日:2026/08/23

 ミチ。

 そう読める。

 赤黒い血でミ。その下。五時の方向にチ。

 そして。チの最後の払いに。

 人差し指と中指が、被さっている。

 指は手。手は腕。腕は体。

 背中に無数の刺し傷のある死体。

 に繋がっている。

「し、死んでるっ」

 浅野亜星が驚いたように言う。

「そっ、そんなっ……」

 駒沢七海は両手を口に当て、息を漏らす。

「きゃあぁーーっ」

 豊洲梨依紗が叫び、

「リイサちゃん。大丈夫」

 藤堂道哉が肩を抱く。

 藤堂は、

「本当に、死んでるのか?」

「ああ、駄目だ」

 浅野は首を振る。

「誰が、こんな酷いことを」

 駒沢が、か細く、

「そっ、そうよっ。誰か。誰かがいるのっ」

 豊洲が叫ぶ。

「ここには、私達しかいないでしょっ。だったら犯人はっ、この中にいるってことじゃないっ」

「落ち着いて。リイサちゃん」

 藤堂は、豊洲の手を握る。

「犯人は、この中には、いないよ」

「どういうことだ?」

 浅野が聞く。

「ダイイングメッセージ。ミチ。未知。知らない。ってことだ。ダイイングメッセージで犯人を知らないってことを、矢口は伝えてる。僕たちの誰かが犯人なら、それを書く。けれど知らないってことは、僕たち以外の誰かがいるってことだ。矢口は死ぬ間際。最後の力を振り絞って、そのことを伝えようとしたんだ。僕たちが、僕たちの中に犯人がいると、疑心暗鬼になって、争わないように。そして、もちろん。本当の犯人。隠れた暗鬼がいることを伝えるために」

「なるほどな。トウヤ」

「でも、こんな山奥のロッジに……」

 駒沢が小さい声で、つぶやく。

「いるわけないだろ。なあ。トウヤ」

「なんだ?」

「お前の推理は、間違っている。真実から、目を背けさせようとしている」

「何が言いたい?」

「ダイイングメッセージのミスリーディング。どう考えても、簡単だろ。トウヤ。お前の名前は。トウヤ。は、どう漢字で書くんだ」

「道。哉。だ」

「ミチ。カナ。だな。ダイイングメッセージのカタカナのミチは、トウヤ。藤堂道哉。お前のことを犯人だと、言っているんだっ」

「そっ、そんなわけないだろ」

「そうよ。トウヤ君が殺人を犯すだなんて。そんなわけないじゃない」

「でも、ミチって……」

 駒沢が言うに重ねて、

「ちがうちがう違うっ。絶対に違うっ。トウヤ君は犯人じゃないっ。ナナミっ。そうよっ。ナナミっ」

「なっ、なに……」

「よく見てよっ。そのダイイングメッセージ。ミチのミ。三画目。二重に重なってるっ。下の払いと、上の払い。本当は、これっ。ミチじゃなくって、シチっ、じゃないの?」

「ちっ、ちが……」

「トウヤ君に、罪を着せようとしたんだっ。ナナミっ。シチは七。あんたのことだっ」

「そっ……」

「やめるんだ。リイサちゃん。ダイイングメッセージは、僕たちが、争わないようにと」

「なるほどな。そうか」

「なんだ、アセイ。やめろよ。僕たちの中に犯人はいないっ」

「三千だ」

「さんぜん?」

「ミチじゃない。三千なんだ」

「それが、どうした?」

「スリイサウザン」

「ばっ、馬鹿なことを言うなっ。なんだっ。お前は、リイサちゃんが犯人だと言うのかっ」

「ちがうちがう違うっ。絶対に違うっ。私は犯人じゃないっ。しっ。トウヤ君も犯人じゃないっ。ナナミっ。ナナミがやったんだっ」

「あっ……」

「ダブルミーニングなのかもな。トウヤとリイサの共犯って線も」

「せっ……」

「違っ。違うって言ってるでしょっ」

「僕も違う。もうやめろっ。僕たちの中で争うのは。犯人は、この中にはいないんだっ」

「あのっっっ!……」

 駒沢七海の大声で、会話が止まる。

「あの、その……」

「何よナナミ」

「汗。じゃない……?」

「そうか。ミチじゃない。三千でもない。汗。汗と書いたんだ。犯人は、アセイ。お前がやったんだ」

「人でなしっ。私たちを犯人扱いしてっ」

「……私を犯人扱いしたのは、リイサちゃんじゃ……」

「なんとか言ったらどうなんだっ」

「そうよっ」

 浅野亜星は、しばらくの間、沈黙して、

「ふふふ」

 肩を震わせ、

「ふはっ、ははははははっ。汗かっ。そう、来たか。ミチでなく汗。確かに。ダイイングメッセージのチをよくよく見れば、一画目は、左から右に書かれたように見える。なるほどなぁ」

「やっぱり、お前がやったのか」

 藤堂道哉が。

「人でなしっ」

 豊洲梨依紗が。

「やっ、やっぱり……」

 駒沢七海が。

「犯人は、」

 浅野亜星が、

「今田っ、お前だっ」

 凶器を。ナイフを手に持った私を。

 指差した。

 違う。

 と私は答える。

「いや、これは、トウヤが最初に言ったように、ミチは、未知。だったんだ。イマダシラズ。ミチが表すのは、今田。お前だ」

 なるほどね。

 いや。

 シラズの方は?

「知の方は、矢口だ。自分自身のことを表している。今田と矢口。この二人が部屋に居た。ということを表しているんだ」

 なるほど。

 いや。

 苦しいでしょ。

「そうか?」

 ミチが、三千で。

 スリイサウザン。

 でリイサを表す。

 あれも苦しかったけど。

「あれは、そうだな。確かに」

 あれだったらさ。

 豊洲の洲。

 洲の初めの方。

 氵と忄を書こうとして。

 ミチになったんだ。

 とかどう?

「ミは良いけど、チは無理矢理じゃないか?」

「ちょっと。やめてよ。また、私が犯人?」

 と豊洲梨依紗。

「それだったら、浅野の浅と書こうとした方が良いんじゃない?」

 と藤堂道哉。

「……あの、私の沢と、書こうとした方が……」

 と駒沢七海。

「ちょっと、ナナミ。それじゃ、あんたが犯人になっちゃうでしょ」

「……私を犯人扱いした人のセリフ……?」

「やだー。もう。ゲームじゃない。ゲーム。不機嫌になんないでよ」

「ダイイングメッセージなんて、いくらでもミスリーディングできるもんな」

 そうだね。

 と浅野亜星に私は返した。

「結局さ。ミチ。いや。まあ僕たちがそう読んでいるだけどさ。矢口は何を言いたかったんだろうね」

 分からない?

 と藤堂道哉に言うと、

「えっ、分かってんのかよ」

 と浅野。

「分かってんなら、最初に言ってよー」

 と豊洲。

「知りたい……」

 と駒沢。

「推理を聞かせてほしい」

 と藤堂も言う。

 簡単なことだよ。

 みんなも気づいてたけど。

 ほら、さ。

 ダイイングメッセージ。

 ミチのミ。

 三画目。

 二重に重なってる。

 それと。

 ダイイングメッセージ。

 ミチのチ。

 一画目。

 左から右に書かれている。

 ミチ。

 じゃなくて。

 ミンナ。

 なんだよ。

 と。

 みんなに言う。

 みんなは、なるほど。

 と頷いていた。


 探偵ゲーム。

 面白かったね。

 それじゃあ、さ。

 私。

 まだまだ。

 矢口君。

 刺し足りないから。

 いい?

 私は。

 みんなで刺した。

 ナイフを手に持って。

 矢口君を。

 何度も何度も。


 死後硬直なのだろうか。

 矢口君の体には。

 ミチミチと弾力があった。



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