第5話
「しかし、妻を娶るまでは紆余曲折があったものだ。余は戦には確信ともいえるほど余裕があったが、妻を探すとなれば、全くと言っていいほど違うものが求められる。それを知らんかった。余はただ各地の蛮族や有力者を妾として、迎え入れるだけだった。だが、正妻ともなればそうもなるまい。余のすぐ傍らに立ち、余の力となり、余の代わりをなすものでなければならん。それを探すのは容易ならざる大事業であった。
余はまだ20にわずかに足らず、だからこそ妻を探すということができたのだろう。遠く、余の王国から離れたところまで出かけ、しかし見つけることはできなかった。近く、余の王都を探し、しかし見つけることはできなかった。以前、余がいた土地を探し、しかし見つけることはできなかった。どこに余にふさわしい妻がいるか、それを探すのがもはや目的となっていた」
「しかし陛下、陛下は奥方を見出されました。それも身近におられる方で」
老人が老王へと述べる。
「妻が、まさかあんなところで見つかるとは思いもしなかった。あれは、余が身分を隠して旅をしていた時。お前はその時大いに焦っていたと、後で聞いたぞ。悪いことをしたとは思っているが、これも余の王国のためだ。旅は供もとらず、気ままな旅をしていた。数か月に及ぶ旅の途中、ある宿場町に逗留することとなった。王都から2か月ぐらいは歩き回っていたが、結局直接行けば1か月かからないぐらいのところだったな。そこで余は妻となるべき女性を見つけた。たしか余の王国の外から来たが、そのまま居ついたという人物だったはずだ。詳しいのは妻に聞かんとわからんが。
妻となるその人物は、余のことを知らなかった。だからこそ最初から妻となる人物の人柄、性格を深く知ることができた。まるで猫のような、そんな気ままな人物だということ、そして余の屋敷に来るかと誘うと真っ先に断ったという物珍しさ。余はそういうところにほれ込んだ。宿場町であるからにして、どこか目的でもあるのかと問うた。だが彼女は何もないという。ただ旅が好きだから、旅をしているということらしい。宿銭はあちこちで1日か2日の短期で働いて稼いでは次のところへと向かうのだという。余もそれに同道するというと好きにすればいいよ、と言われた。だから余も彼女に併せて旅をするようになった。
だが彼女も余のことが何か特別な存在だということに、うすうすと気づいてきたのだろう。旅をしていると何かにつけて無料となったり、あるいは何か優遇を受けたりしていた。だからついにその時を迎えた。妻が余のことについて尋ね始めたのだ。はじめは単なる気ままな旅仲間とでも思っていたのだろう。だが、そうではなかった。だから聞いた、そのような話から始まり、そして直入に尋ねてきた。『あなたは誰なの』と。
だから余は答えた。王であること、この土地の統治者であること、妻を娶るために旅をしていること、そして貴女を妻として迎え入れたいこと。そしたら少し考えさせて、という返事が返ってきた。今すぐ、ということにはならないだろうと思っていたが、それでも時間はさほどなかった。正妻を取ることは、王国が引き続き反映し、存続することの絶対条件だった。だからこそもしもあなたが断ったとしても、次の正妻候補を探すだけだと伝えた。今となれば妾腹からの子を次世代の国王として教育するということもできるだろうが、あの時の余は必至だった。きっとあれが恋とかいうものなのだろう。
翌日になりて、ようやく返事をくれることとなった。周りには出発準備にいそしむたくさんの人らがいた。とてもよく覚えているよ、彼女からの回答は、『あなたのことは知らないけど、知らないからこそ一緒に行くわ』。そして、余の妻となったのだ」




