第3話
「数多くの蛮族を撃ち払ったところも痛烈であった」
ああ、あの戦いだったかな、と老王がひとり呟く。
「サイシゲックとか言ったかな、あの蛮族は、わが王国が成り立とうとしていた最後の、そして王朝を開くためのきっかけともなった、最大の戦いであった。彼らは1万を超える軍勢で、しかし我らは2000に足りぬ。それでもよく訓練が行き届き、士気も極めて高いわが軍の前の敵ではなった。それでも彼らはよく戦った。戦ってくれた。サイシゲックは我が前に立ちはだかり、わずかな隙をついて眼前に差し迫ってくれた。剣を交えること数度、もはや敵味方関係なく、余とサイシゲックの間の戦いのみが戦闘を決める、それほどになっていた。
余はそれでも戦った。だが、サイシゲックは余よりも若かった。力の加減を知らぬということは、単なる勇気よりも勝る。ぬかるみに足を取られ、ふわりと後ろに倒れる余をかすめるようにサイシゲックの剣が、余の影の首を掻き切る。ごくわずかな差が、余がここにいることを許した。仰向けに倒れた余にサイシゲックはとどめと言わんばかりに剣を突き立てようとする。だが、余はサイシゲックの股座を今まで感じたことがない力で蹴り上げた。痛快であった。まさかこんな攻撃を受けるとは思わなかったのだろう。そのまま股部を抑え込み、刺そうとしていた剣は余の頬をかすめるだけで済んだ。こうなると形勢は変わった。最後、立ち上がる余と痛みで睨みつけるのが精いっぱいで転がっているサイシゲックであった。
今も思い出す。もしも余がここでその攻撃をしなかったら。もしも余があのときあそこでぬかるみに足を取られていなかったら。余は今、こうして生きてはおらぬだろう。サイシゲックはあのあと臣従を結ぶとあり生き永らえさせたが、まさかあの蛮族の長が余の臣下の中で最も長生きするとは思いもせんかった」
ただどうやら今、老翁の話を聞いている老人はサイシゲックではないらしい。
ここに入り込めるのであればかなり地位の高い人物であるか、あるいは老王が信用をしている人物でなければならない。
サイシゲックは地位は高くあるが元が蛮族の長とあって、老王はこの年になるまでとうとう信用することができなかったようだ。




