僕の家族は七つの大罪
人の偏見ってどこでもあるけど神様も偏見もってたのかな?
七つの大罪がもし偏見だったらこんな感じで面白いのにと思って書きました
面白かったら長編にしてみたいなー
俺の名前はヒカル。ごく普通の高校2年生だ。いや、普通じゃないな。正確には、普通を装っている。なぜなら、俺の家族は――七つの大罪だからだ。
長男のルシファー兄さんは、エリート大学を出て若くして会社を立ち上げたカリスマ社長だ。完璧主義で、いつも「お前の努力は甘い」と俺に言う。兄さんの言うことはいつも正論で、反論の余地がない。でも、兄さんの部屋の観葉植物はいつだって完璧に整えられているのに、一度も水をあげているところを見たことがない。いつもは他人任せなのだ。
次男のマモン兄さんは、株や仮想通貨で大成功した投資家だ。金の話しかしない。たまに家に帰ってきても、ソファに寝転んでスマホの画面を眺めている。画面にはいつも数字とグラフ。家族の誕生日にも「お祝いだ、好きなだけ使え」と分厚い札束を渡してくる。ありがたいんだけど、なんだか寂しい。兄さんの目は、いつだって俺じゃなくて、お金の価値だけを見ている気がした。
三女のエンビー姉さんは、とにかく他人と自分を比べる。大学で優秀な成績を収め、大手企業に就職したはずなのに、SNSで同級生が海外旅行に行ったり、ブランド物を買ったりしているのを見ると、急に不機嫌になる。「あの人、私より勉強できなかったのに…」「どうせ親のコネだよ」と、憎々しげに呟く。姉さんは自分の持っているものには満足せず、いつも他人が持っているものばかりを羨んでいる。俺が学校のコンクールで入賞した時も、姉さんは「ふーん、でもプロの画家はもっとすごいし、もっといい賞を取ってる人もいるよ」と呟いて、俺のトロフィーをじっと睨んでいた。姉さんの目は、いつだって、隣の芝生ばかりを見ている気がした。
四男のサタン兄さんは、正義感が強すぎる。街の不良を見つけると、問答無用で説教を始めるし、バスの中で老人に席を譲らない若者を見ると、激しい剣幕で怒鳴りつける。俺が学校で理不尽な目にあったときには、「そいつをぶっ飛ばしてやる!」と本気で言ってきた。兄さんの気持ちは嬉しい。でも、いつもその激情に巻き込まれるのが怖かった。
五男のベルゼブブ兄さんは、食いしん坊だ。いや、もはや病気だ。冷蔵庫の中身は一晩で空になるし、兄さんがご飯を食べ始めると、もう止まらない。一度、友達が遊びに来た時に、出しておいたお菓子を兄さんが全部平らげてしまって、気まずい思いをした。兄さんは満腹になっても、まだ何かを探している。常に何かを欲し、その欲望が満たされることはないようだった。
そして、六女のラスト姉さんは、とにかくモテる。男女問わず、姉さんの周りにはいつも人が集まってくる。姉さんは、飽きっぽい。デートに誘われても「面白くなさそう」と言って断るし、少しでも退屈すると、すぐに次の人に興味を移す。この前、姉さんの部屋に大量の使いかけの化粧品が散らばっているのを見てしまった。どれもこれも、中途半端にしか使われていない。
そして、末っ子の俺の兄、ベルフェゴール兄さんは、部屋から一歩も出ない。兄さんの部屋は、ゴミの山とゲーム機と漫画と、少し埃をかぶった筋トレグッズで埋まっている。食事も俺が部屋まで持っていく。何度か「外に出ようよ」と誘ったけど、「面倒くさい」と一言だけ返ってきて、それ以上は何も言わない。兄さんは、きっと何でもできる才能があるのに、ただただ、何もせず、時間を浪費している。
俺は、そんな家族の中で、ただ「普通」であろうと必死だった。彼らのように突出した個性もなく、欲望に支配されることもなく、ただ静かに毎日を過ごすこと。それが俺の唯一の願いだった。
ある日、学校の帰り道、俺は商店街で立ち止まった。ガラスケースの向こうには、新作のゲームソフトが並んでいる。これを買えば、ベルフェゴール兄さんが少しは喜んでくれるかな。そう思って、ポケットに手を入れた。でも、俺の手はすぐに止まった。
このゲームを買っても、兄さんは一時的に喜ぶだけだ。どうせ、すぐに飽きて、また部屋の隅に放り出されてしまう。
俺は、ふと、周りを見渡した。
完璧な計画を立てて歩くルシファー兄さん。
隣の店のセール品を値踏みするマモン兄さん。
向かいのパン屋に行列ができているのを睨むエンビー姉さん。
ゴミをポイ捨てした若者に詰め寄るサタン兄さん。
肉まんを3個一気に頬張るベルゼブブ兄さん。
見知らぬ男性と楽しそうに話すラスト姉さん。
みんな、それぞれの「大罪」を生きている。
でも、その姿は、俺が思うほど悪魔的ではないのかもしれない。
彼らは、ただ、それぞれの**「何か」**を、他の人よりも強く欲しがっているだけなのだ。
俺は、ゲームを買うのをやめて、家に向かって歩き出した。
彼らは、俺にとって、普通ではない、特別な家族だ。
そして、彼らの中に、俺と同じように「普通」を欲しがっている一面があるのかもしれないと、少しだけ、そう思えた。