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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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プロポーズ

 次の日曜日、私はマスターと約束した通り、康子を連れて店を訪れだ。先日いた店の常連も来店していた。


「今日、いつもより込んでいるね」


 康子が言った。テーブルは一つだけ空いている。


「あそこが空いているよ」


 そこは私と康子が初めて訪れた時に座ったテーブルだった。この日のためにマスターがこの席を空けていてくれたのだ。もちろん、そのことはこの日のお客の大半が理解している。そのため、2人が店に入った時、視線がしっかり注がれていた。敏感な康子はその違和感を感じていたが、理由を知る由もないので気にしないようにした。


 私たちはテーブルに座ると、マスターが注文を取りに来た。私は口ではコーヒーを2つ注文しつつ、「今日はよろしく」と伝わるような微妙な目線を送った。


「何、どうしたの? 今日、周りもマスターもあなたちょっと変」


 勘が鋭い康子のことだ。いつもと違う雰囲気に違和感があったのだろう。私自身、そんなにいつもと違う雰囲気は出していないつもりだったが、これから話すことを考えると、微妙なところで普段の自分とは異なっていたのだろう。


 そんな雰囲気でいつものような会話が弾まないところにマスターがコーヒーを運んできた。マスターが空気を読み、私に耳打ちした。


「雨宮さん、彼女、何か感じたみたいだね。言っちゃったら?」


 その様子に康子が言った。


「何、私に隠し事? 今までそんなこと、一度もなかったじゃない」


 初めて康子が怒るところを見た。私にしてもそんな康子は初めてだったので、慌ててしまった。


「ごめんごめん。俺が思わせぶりなことをしたために、康子さんを怒らせてしまったね。でも、これから彼が大切な話をするので、聞いてやって」


 康子は何のことか分からず、いつもの表情に戻り、私のほうをじっと見た。その澄んだ瞳はいつにも増してきれいな輝きを持っており、私は意を決して康子に告げた。


「ごめん。不快にさせてしまったみたいだけど、今日は君にプロポーズしたい。僕と結婚して下さい」


 そういって私はバッグから指輪が入った箱を取り出そうとした。


 しかし、取り出しやすいように入れたつもりだったが、すぐに出せない。私は慌てて底の方までひっくり返すようにしたところでやっと見つかった。焦った感じで両手に持ち、康子に渡した。


 指輪を探そうとしていた時、康子から目線を外していたが、渡す時にはしっかり顔を見た。


 康子の顔が崩れ、涙腺が崩壊したようで、頬に涙が伝わっていた。私はその涙がとても美しく見えた。


「・・・将雄さん。ありがとうございます。待っていました。結婚のお話し、有難くお受けさせていただきます」


 この時、私の視界から周りは全て消えており、もちろん何の音も聞こえない。実際、周りのお客さんも常連さんであれば承知していたことなので、事の成り行きを注視していた。何も知らないお客さんは異様な感じを受けていたかもしれないが、私のプロポーズの言葉とそれを受けた康子の言葉を聞いた途端、割れんばかりの拍手の渦となった。


「おめでとう」


 店内のあちこちから祝福の声が響いた。私たちの周りは温かい空気に包まれ、康子はさらに目から涙を溢れさせた。


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