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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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初めてのデート

 再会は次の週で、私たちは神代植物公園に行った。深大寺の隣にある都立の公園で、時期によりいろいろな企画が催される。この時期、バラフェスタの期間中で、噴水の周りにいろいろな種類のバラが咲き誇る。その様子は初めて訪れた私にとって圧巻だ。


 だが、私には康子のほうが眩しく見える。持参したカメラではもちろんバラの花も撮るのだが、そういうふりをして康子も撮っている。ばれないように注意しながらなので、なかなか良いショットは撮れない。でも、バラの花を介して写る康子の表情や仕草は私の心を十分満たした。


「私のほうばかり見ている。私、変?」


 その言葉に返事を詰まらせた私だが、その様子にまた康子は笑っていた。


「私ね、バラの華やかさより初めてあなたと会った時に見ていたナンジャモンジャが好きなの。一つ一つの花は小さいけれど、それが集まって一生懸命咲いている感じがして…。ちなみに花言葉は『清廉』と言うそうよ」


 その話は私が康子に感じていたことと一致した。


 私の頭の中ではいろいろなことが回り始め、何だか全身が熱くなっていく自分を感じていた。


「ねえ、ソフトクリーム食べない? 近くに売店があるの。この時期、バラソフトというメニューがあって、ほんのりバラの香りがするの。あまり見かけないと思うから食べましょうか」


 康子はそう言って売店のほうに私を引っ張っていった。2つ注文し、一つを康子に渡した。私もソフトクリームを口にしたが、聞いていた通り、ほんのりバラの香りがする。これまでソフトクリームというバニラだけしか知らない私にとって、それは初めての体験だった。


「美味しいね」


「そうでしょう。私、ここに来るといつもいただいているの」


 そういう会話をしている時、康子がハンカチを出し、私の口元をそっと拭いた。


「口の周りにソフトクリームが付いていた。子供みたい」


 笑いながら康子が言った。出会ってから今日で2回目なのに、私は昔から知っている恋人のような不思議な感覚に陥った。


「ごめんなさい。私、また余計なことを・・・」


 康子は謝ったが、私は不思議と嫌な気持ちは全くなかった。それよりもその優しさと素直に行動する性格に心をすっかり奪われた。


 私にも学生時代、付き合っていた人がいた。卒業とともに別れたが、その時の彼女に対する意識と全く異なる。一緒にいて心が和むわけだが、仕事に疲れているからというわけではないことを感じていた。


「お腹、空かない?」


「ちょっと・・・。売店に軽食は売っているようだけど、ちゃんとした食事が良いよね?」


「私、そんなこと気にしない。せっかく屋外にいるんだし、明るいところで食べましょう。その方がきっと美味しいわよ」


 私たちはそう言って別の売店に行き、それぞれ食べたいものを買った。近くにはベンチやテーブルがあり、そこに食べ物を置いていただいた。多分冷凍食品、レトルト食品だと思われるが、康子と2人で食べる屋外での食事はこれまでのどんな料理にも増して美味しく感じていた。



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