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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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思い出の深大寺 4

 6年前、深大寺にはお参り目的で来たのだが、時間的にお腹が空いてきた。ここはそばが有名ということは知っていたので、せっかくだから食べていこうと思った。山門のそばの店に入ったが、なんとそこに康子がいたのだ。まだテーブルにはお茶だけしかないことを見ると、注文したばかりのようだ。私は自然に康子に声をかけた。


「先ほどはどうも。・・・あのう、ご一緒しても良いですか?」


 何も考えずに自然にこの言葉が出てきた。


「・・・はい。良いですよ。さっきは申し訳ありませんでした。失礼なことを言ってしまい、それが心に引っかかっていて・・・。きちんと謝りたかったので、宜しければ」


 その時のはにかむような感じで返事する康子の顔は眩しかった。池の水面に反射する光がそう思わせたのではない。康子の雰囲気がそう思わせたのだ。


 だが、同じテーブルに座ったものの、最初の挨拶だけで話が進まない。まるでお見合いの席で初めて出会った2人の様な感じだ。それではここに座った意味がない。私は何とか言葉を絞り出した。


「ここにはよく来るんですか?」


 当たり前すぎるセリフだが、私にはこういう言葉しか思い浮かばなかった。


「はい。私、三鷹に住んでいるので、神代植物公園や深大寺にやってきてはお蕎麦を食べる、というのが私の定番なんです。ところで、まだ名前も申し上げていませんでしたね。私、飯島康子と申します」


「ごめんなさい。僕も名乗っていませんでした。雨宮将雄といいます」


 なぜか心が逸り、だけどうまく言葉が出てこないが、そういう時に店員の人が注文を取りに来た。


「力蕎麦をお願いします」


 そう注文すると、康子が言った。


「お好きなんですか?」


「はい。餅は好物なんです。何か物事に集中した時、つい食べたくなります」


「何か集中する様な事、ありました?」


 康子は私の顔を覗き込むような感じで質問した。


 だが私にもそれが何なのか分からない。そういう感じで曖昧な返事をしている内に康子が注文したにしん蕎麦がテーブルに運ばれてきた。だが、康子は蕎麦に手を付けない。


「どうぞ、先にお召し上がりください。伸びちゃいますので・・・」


「ありがとうございます。では、お先きに・・・」


 あまり間を空けずに私の注文した力蕎麦も運ばれてきた。康子は先に食べ始めたといってもそれはゆっくりで、私が食べ始めるのを待っているかのようだった。その様子に、私は康子の人間性に興味を持った。


 食べている時はそれに集中し、しゃべることはほとんどなかったが、食事が終わったらデザートを注文した。もう少し話していたい、ということを思った私の心がそうさせたのだ。テーブルに商品が届くまで他愛のない話になったが、食べながら私は現在の様子を話した。


「ここに来たのは最近、仕事に疲れていて友人から深大寺の話を聞いたんです。そしたら思わぬことでご一緒にお昼を食べることができ、ご利益ですかね」


「まあ、嬉しいわ。でも私、あなたのこと、笑ったんですよ。もちろん、変な意味ではありませんが、傷付けたのではと心配していました。でも、ご利益なんておっしゃっていただき、私も救われました。ありがとうございます」


 心遣いからの言葉だったかもしれないが、この雰囲気は疲れていた私の心を一気に爽快にさせてくれた。それでつい調子に乗り、康子に余計なことを言った。


「あのう、・・・図々しいついでというわけではありませんが、僕には初めての場所ですので、時間がある時で結構ですから、案内してもらうということはできますか?」


 後から考えると、自分としては随分思い切ったセリフだったと思ったが、ここでは自然に出た言葉だった。


 康子は私の提案に不信がることも無く、笑顔で了承してくれた。その上で互いのスマホの番号を交換した。



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