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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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再びナンジャモンジャの木の下で

 5日後、私は深大寺にいた。初めて来た時は心が疲れていたが、今回は抜け殻の様な状態だ。空虚な心が少しでも満たされればという思いで来たが、康子との約束がある。そこに期待もある。


 時間が昼に近いため。私が康子と食事した蕎麦屋に行くことにした。無理に相席を頼んでのことだったが、それでも連絡先を交換したりした思い出の場所だ。そこからの展開に期待した。


 私は店内から池が見える席に座りたがったが、ちょうど空いていた。そこは思い出のテーブルだったが、もちろん今回は私一人だ。座ったらすぐに店員の人がやってきて注文を聞いた。


「力蕎麦とにしん蕎麦をお願いします」


「お連れの方がいらっしゃいますか?」


「いいえ、私一人です」


 店員の人は不思議そうな顔をしたが、多分この人は2人分食べるのだと解釈したようで、そのまま厨房のほうに行った。


 結果として2人分食べることになるが、心の中では康子の分ということで注文した。私の中に康子がいるのだからと自分に説明し、運ばれてきた蕎麦をいただいた。


「久しぶりだね、ここでお蕎麦を食べるのは」


「そうね、美味しいわ」


 私の頭の中では康子とそういう会話をしている。もちろん、現実に声を出しているわけではないが、十分楽しい時間になっている。周りから見たら少し変な人に見えているかもしれないが、ここは2人だけの時間ということで過ごさせてもらった。


 昔、ここで話したことを繰り返していたが、そういう時、康子が言った。


「将雄、もう一度、ナンジャモンジャの木のところに行って。私たちが本当に最初に出会ったところだから」


「分かった」


 私は心の中で答え、店を出て境内のほうに行った。


 本堂に向かって左手にナンジャモンジャの木があるが、その様子は昔と変わっていない。5月という時期もあり、花がしっかり咲いていた。


 私がおやじギャグのようなセリフを言った時、康子がそれを笑ったことがそもそもの出会いだったので、小さな声で同じことを言った。


 その時、後ろの方から康子の声がしたような気がしたので思わず振り返ったが、もちろん誰かいるわけではない。しかし、私の目にはしっかり康子がいたのだ。


 しばしその余韻に浸っていたが、その時、ナンジャモンジャの白い花が一輪落ちてきた。私の手のそばに落ちてきたのでそのまま手で受け止めだが、また康子の声が聞こえてきた。


 だが今度は空のほうからだった。


「昔、ナンジャモンジャの花言葉のことを話した時、私のようだと言ったでしょう。その花が今、あなたの手にある。もう空想の中の私じゃないのよ。あなたのそばにいるの。それを手にしたあなたは、もう大丈夫。しっかり歩いていけるはずだし、もともとあなたは強い人なの。私が死んだことであなたにブレーキをかけてごめんなさい。今日ここに来て、私を手にしたことで昔のあなたに戻れる。私はそれを確信した。だから私は本当に天国に行くね。上からあなたを見守っているわ。あなたは生きている。この世界であなたらしく生きて。あなたならできる。私が選んだ人だもの」


 今までの様に優しく微笑みながら私を元気付けてくれた気がした。五月晴れの日、康子のためにも元気にならなくては、と改めて心に誓う私がいた。



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