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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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義実家にて

 会社を辞め、1年以上が経った。


 相変わらず康子と暮らした部屋に住んでいて、遺影に話しかける日々が続いていた。


 その間、両親だけでなく義両親からも時々連絡をもらい、康子の実家に顔を出すこともあった。


 そこでは、康子の子供時代の話も聞かせてもらい、笑顔も出せるようになった。康子が生きた歴史を知ることで共に過ごしたような気にもなった。それが私の心を立ち直らせるのに効果的に作用することを感じていた。


 ある時、高校生時代に仲が良かった友達と2人で写っている写真を見せてもらった。


「ああ、この写真ね。康子の仲良しだった美津子さん。ほら、康子は将雄さんも知っての通り、奥手だったでしょう。だから美津子さんが積極的にボーイフレンドを紹介していたの。何人かと会ったようだけど、結局、康子から今付き合っている、という話は聞かなかったわ。そんなこんなで大学受験の学年になると勉強の方が忙しくなって、恋愛の話はなくなったの。大学生になっても美津子さんとはお付き合いしていたようだけど、別々の大学だったから、少しずつ疎遠になったわ。美津子さんにも大学で恋人ができたみたいと康子が話していたけど、私は男の人とお付き合いしようという気持ちは無いから、と言っていた。それが将雄さんとはなぜかウマが合ったようで、私たち、不思議に思っていたの」


「そうですか。そんな康子さん、よく僕みたいな男とデートしてくれましたね。話を聞けば聞くほど、何か不思議なご縁で結ばれていたような感じです」


「不思議と言えば、こういうことも言っていたわ。ある朝、康子が目を覚ました時、私のところにやってきて、目を丸くして夢を見た、って言ったの。どんな夢、と聞くと、将雄さんのことだった。たぶんお付き合いを始めて数ヶ月くらいの時かしら、あなたのことは聞いていたけれどまだお目にかかっていなかったでしょう。だから話をされても顔が浮かばないわけ。それで一度家に連れていらっしゃい、って言ったの」


「それでですか。それくらいの時に家に来て、って言われた理由は。あの時は緊張しましたね」


「それは私たちも同じ。だってこれまで康子が家に男の人を連れてくるようなことはなかったから。どんなお話をすれば良いか、主人ともいろいろ相談していたわ」


「そうだったんですか。でも、お邪魔した時、とても良いご家族だなって思いました。その時はそこから家族になるとは想像していませんでしたし、康子が亡くなってからもこうしてお邪魔できたりすることもそうです。本当にありがとうございます」


「お礼を言うのは私たちですよ。康子がいなくなってからもこうしてやってきてくれて、思い出話ができるなんて、私たち、幸せです」


 そう言いながら、義母の目に涙が浮かんでいた。その様子を見て私の目にも涙が浮かんできて、しばしの間、無言になった。


「そうそう将雄さん、今晩は食事していけるわよね。そのつもりで煮物を作っておいたの。ウチの味付けだけど、将雄さんが美味しいと言って食べてくれたと康子が言っていた。私が教えたレシピだから、同じ味だと思うわ」


「ありがとうございます。確かにしばらく食べていません。また、康子のことを思い出せます。楽しみです」


 そういうことを話している内に義父が戻ってきた。


「いらっしゃい。少し元気になったみたいだね。良かった」


「ありがとうございます。お義母さんから康子のことを聞いていたんです。そして今晩は食事にご招待いただき、康子が作ってくれた味をいただけることになりました。おかげさまで少しずつ気持ちが前向きになっています」


「そうか、そうか。ここも自分の家だと思っていつでも遊びに来てください」


 その言葉にまた私の目に涙が浮かんできた。



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