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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
22/26

出社 1

 次の日、久しぶりに出社した。


「この度はご愁傷さまでした」


 決まり文句で出迎えられた。私は作ったような会釈で返した。


 仲の良い同僚から個人的に声を掛けられた。


「大変だったね。落ち着いた?」


 気遣っての言葉だったが、大切な人を亡くしたのだ。そんなに簡単に落ち着くわけはない。


 しかし、本音を言えば空気が暗くなる。


「うん、ありがとう。ウチの両親や義両親もいろいろ心配してくれて、電話をもらったり食事の差し入れをしてくれる。有難いよ。改めて人の優しさを感じている。後は自分がしっかりするだけだから・・・」


 私は気丈に答えたつもりだったが、その表情は沈んでいる。その様子は同僚も感じている。だからそれ以上何も言えない。


「そうだ、雨宮。こんな時期だから長居はできないが、夜、飲みに行かないか? 酒で少しは気晴らしになるかもしれないから・・・。ただ、2人だけだ」


 何とか私の気を紛らわそうと言ってくれていることは分かる。


「ごめん、まだそういう気になれない。もう少し経ったら話を聞いてくれるか?」


「もちろん。ごめんな、お前の気持ちも考えずに・・・」


「いや、誘ってくれて嬉しかったよ。ありがとう」


 そう答えた私は久しぶりに会社のデスクに座り、休みをもらった時に代わってもらったこと、私が処理しなければならないことに集中することにした。


 久しぶり会社だったが、自分としてはいつものように仕事をこなしたつもりだった。実際には違っていたかもしれないが、少なくとも仕事中はそこに集中でき、康子のことは頭の中に出てこなかった。


 帰り道、コンビニに寄った。弁当を買うためだ。食欲があるわけではないが、食べないことで体調を崩すようであれば、天国の康子が自分のせいで私が身体を壊したと嘆くかもしれないと思い、コンビニ弁当でも良いからお腹にいれようと思ったのだ。


 会社を休んでいる時は、母や義母が料理を持ってきてくれたが、今日から会社に出ていることを知っているので、家に帰っても食べるものが無い。また独身時代に戻った感じだが、改めて康子の手料理が恋しい。その味を思い出す。そう思うだけでまた涙が出てくる。


 すれ違う人の中には自分の顔を見ている人がいる。そんなことを思いながら家までまっすぐ前を向いて歩いた。


 家のドアを開けた。


「ただいま」


 康子がいる時の同じように帰宅の言葉が自然に出てきた。帰ってきた時のルーティンだったので無意識だったが、当然、何の返事もない。でも、私の中では康子の「おかえりなさい」ということが聞こえる。一瞬、これまでのことは夢だったのかと思えた。


 だが、手にはコンビニ弁当を持っている。その重さが現実を教えてくれる。


 そのことに自然に笑いが出る。もちろん、現実を受け入れられない自分に対してのことだ。もしこのシーンを見ている人がいて、その人が心無い人であれば嘲笑されるかもしれない。しかし、ここには今、自分しかいない。会社と違って、思いっ切り康子がいないことを悲しんで良いのだ。そう思うと買ってきた弁当を食べることなく、康子の遺影が飾ってある部屋に行き、また2人だけで思い出話をしていた。



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