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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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康子がいない

 葬儀の後、数日が経ったが、実感は湧かない。会社からは1週間の休みをもらった。その間、私は一人家に籠り、康子の遺影に語りかける毎日だった。楽しかった頃の記憶が私の頭の中を駆け巡る。夢の中では康子が笑いかける、話しかける。康子とマスターの店に行き、一緒にコーヒーを飲む。そんなこれまで当たり前だったことが全て幻になっている。


 朝起きた時、ふと横を向くと康子の顔が見えたような気がした時もあった。しかし、それは夢か幻と気付く。もしかするとトイレにでも行っているのかな、と思うこともあった。


 ダイニングのテーブルに座っていると、康子が後ろから食事を運んできてくれるのでは、という思いもあった。でも、それもただの幻想だ。


 ただ、この1週間、私の両親や義両親から電話をもらったり、食事の差し入れがあった。私が好きなものばかりだった。


 小さなころからカレーが好きで、康子もよく作ってくれた。今は母が作ってくれているが、気付いたことがある。康子のカレーは母の味だったのだ。美味しいと感じていたのは同じ味だったからと改めて気づいた。そしてその理由は差し入れを食べた後、母と話した時に分かった。


「将雄、お前は気付いていたかどうか分からないけど、好物だと言っていたカレー、康子さんに私が教えたの。それぞれの家で味が違うでしょう。康子さんの家のカレーとは味が違うのではいうことで、ウチに来て教わっていたの。陰に隠れてあなたのことを考え、きちんと支えようとしていたのよ。よくできたお嫁さんだった」


 その話を聞き、また電話口で涙が流れた。


 何につけても、思い出すは康子のことばかりだ。時間が心の傷を癒す薬になるような話は理解しているつもりだが、現実には受け入れがたい。死に顔も見られなかったことが、私の心を深く傷つけていたのだ。その上でいつか私も康子のことを良い思い出として記憶の中に納めてしまうのか、いや、それはできないといった考えが心の中で葛藤している。


 そう思っていても明日からは仕事だ。会社に迷惑をかけたことは分かっている。


「明日はいつもの顔で出社できるだろうか? 今はリモートで仕事できる部分もあるが、しばらく休んでいたこともあり、きちんと報告しておかなければならない。康子のことは今日1日、この部屋でゆっくり自分と語り、明日は切り替えて会社に行こう」


 そう思い、遺影を見ながら楽しかった頃の話をして、その時の自分の気持ちを伝えることにした。



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