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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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思い出の深大寺 2

 でも今日は1人だ。康子は3年前、コロナに感染して亡くなったのだ。


 この2年半、その時のショックで仕事も手に着かず、しばらくして退職した。


 何もできないまま時間だけが過ぎたが、康子とは夢の中で何度も会った。その度に私を元気付けてくれる。その中で康子が言った。


「将雄、私たちが初めて出会った深大寺に行ってみて。もしかするとまた逢えるかもしれないわよ」


 そんな夢の中の言葉が今日に繋がっているのだが、どこかで何かを期待していたのかもしれない。そして少なくとも、バスの中で康子の香りは経験した。


「もしかしたら、それが夢の中で康子が言っていたことなのかな・・・」


 見ず知らぬ初対面の女性にそういうことを思う自分を恥じながら、私は夢の中の康子の言葉を否定した。


 そういうことを考えながら私は山門に続く道を歩いた。


左腕が寂しい。いつも康子が私の左側を歩いていたからだ。時折その方向を見るが、いないということを実感するだけだった。


 参道を歩き、突き当りの階段を上り、山門の前で一旦立ち止まった。そして本堂のほうを見た。天気が良いせいか、そこそこの人出だ。


 境内に入り、まず手水場で手を清めた。そして線香を1本買い求め、本堂の手前にある常香楼に入れた。中に火種があるので、それで火が付いた。煙が昇ってくる。


 その煙を身体の悪いところに集めて撫でるようにするとご利益がある、ということなので頭のほうに招き入れるように動かした。まだ、康子を亡くしたことによる気持ちが整理できていないので、少しでも軽くなればという思いを込めてのことだった。


 何となく、気持ちが軽くなったような気がした。これは深大寺のご利益なのだろうか。


 そういうことを思いながら、本堂に設置してある賽銭箱のほうに移動した。正月のように混んでいるわけではないので、少し並んでいるとすぐに自分の番が来た。


「久しぶりにお参りに来ました。今日は1人です。前回は康子と2人でお参りに来たのですが・・・。しばらく何もやる気が起こりませんでした。すると夢に出てきた康子に叱られました。だから今日、自分の弱気を断ち切るため、2人が出会ったこの場所にやってきました」


 私はここを訪れた理由を心の中でつぶやいた。そして、天国にいる康子にも、変わりたいと思っている自分を見て欲しいと考えていたのだった。


 お参りの時間は客観的には短かったが、自分の中で走馬灯のように最初の頃が思い出され、長く感じていた。


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