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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
18/26

力尽きた康子

 そこから先のことはよく覚えていない。康子の両親にも感染のことは伝えてあるし、病院にも連絡先を伝えてある。


 しばらくして義母から電話があったことは覚えている。


「・・・将雄さん、康子が亡くなったって本当?」


 声が震えている。信じられないという気持ちは電話口から伝わってくる。


「・・・はい、僕のところにもさっき、病院から電話がありました」


 力なく答えた。


「死に目には会えたの?」


 両親と康子は僕たちが結婚した後、電話で話すことは時々あったが、実家に行くことは少なかった。新婚ということを気遣い、両親も顔を出せとは言っていなかったのだ。


「すみません。僕がいながら康子を先に逝かせてしまって、申し訳ありませんでした。もっと注意してあげていたら・・・」


 私は自分を責めるような言葉で話したが、義母からは自分も悲しいだろうけれど、慰めてくれた。それが余計に私を辛くした。


「それで康子の遺体はいつ戻ってくるの?」


 義母は康子の帰宅について尋ねた。


「遺体としてではなく、火葬して遺骨だけが戻ってくるそうです。感染拡大防止のためだそうです」


「そんな・・・。私たちは康子の死に顔も見ることができないの? そんなのおかしい」


「・・・僕も同じ気持ちです。亡くなった連絡の時、ショックで何も言えませんでした。お義母さんの声を聞き、少し落ち着きましたので、もう一度病院に電話します。その後に僕から電話します」


 私はそう言って電話を切り、そのまま病院に電話を掛けた。


「雨宮と申しますが、先ほど妻の康子が亡くなったと連絡をいただきました」


「はい、私がお電話しました。本当にお気の毒でした。私たちの力が及ばす、申し訳ありませんでした」


「お世話になりました。先ほどより少し落ち着きましたのでお電話したのですが、本当にお骨としてしか戻れないのですか? 入院してから一度も顔を見ていません。せめて死に顔でも思い・・・」


 ここまで話す内に涙が出てきて、最後まで話せなかった。


「申し訳ありませんが、コロナで亡くなった方への対応は厚労省からのガイドラインに基づいています。私たちもせめてご遺体を自宅にと思っているのですが、感染拡大防止の観点からということですので、それに反することはできません。ご理解ください」


 国からの指示ということであれば一連の流れについて決まっているわけだから、それ以上病院に対応を求めてもできないことは分かる。大変悔しいが飲み込まなければならない。


「・・・分かりました。では、葬儀のこともありますので、何時遺骨は帰ってきますか?」


「火葬の手続きなどがありますので、早ければ2日後くらいになります。お悔やみ申し上げます」


 私の心の中では言葉で何を言われても受け入れられないのだが、これ以上は何もできない。「分かりました」とだけ答えて、電話を切った。そのまますぐに義母に電話を入れ、聞いたことを伝えた。


「そう、やっぱり康子は骨だけになって帰ってくるのね。2日後ね。葬儀屋さんを手配しなければならないけど、式は近親者のみで行ないましょう。こんな時期ですし、コロナで亡くなった人のところに来るのは良い気持ちはしない人もいるかもしれない。もちろん、遺骨になれば感染することはないけれど、弔問にお越しになる方の間で感染者が出たりしたら、康子のせいだなんて思われるかもしれないし・・・」


 私には理解できないところもあるが、救急車が来た時に集まった人たちの様子を見ていたので納得する部分もある。


「分かりました。式は私の家で家族葬ということでやりましょう」


 私の検査結果については次の日、病院から連絡があった。陰性だった。私まで陽性であれば、葬儀もできない。少なくとも、康子を送ってあげられる、それだけが私の救いだった。



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