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ナンジャモンジャ  作者: 藤堂慎人
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康子、感染 1

 マスターの店に訪れて3週間ほど経った頃だった。私が仕事を終えて帰宅した時、康子の姿が見えない。いつもなら、私の帰宅時間には台所に立ち、夕食の準備をしている時間なのに、ダイニングの照明が点いていないのだ。


「康子、いないのか?」


 私は玄関近くで部屋全体に聞こえるような声で言った。すると寝室のほうから力のない声がした。


「あなた、ごめんなさい。休んでたの。夕食の準備、できてなくてすみません」


「どうした。具合が悪いのか」


 私はそう言い、康子の額に手を当てた。熱い。明らかに熱がある。表情にも生気がない。


「昼ぐらいから体調がすぐれなくて、さっき薬を飲んで横になっていたの。そのまま寝過ごしたみたいで、夕食の準備できていないの。今、何かすぐ作るね。ちょっと待っていて」


 そう言いながらも会話の途中に何度も咳をしている。


 今、コロナが流行っている。康子は専業主婦なのであまり人込みに出かけるわけではないが、どこで感染するかは分からない。この前で掛けたことで感染したのかもという思いも過ったが、潜伏期間については主として5日くらいと聞いているので、先日のことは関係ない。となると自分がウイルスを運んできたのが、といったことが頭の中を駆け巡った。


しかし今、目の前にいる康子の容態に対応することが大切だ。


 感染の拡大が懸念されている今、行政のほうもその拡大を防ぐため対策を講じている。都の感染に関係する相談窓口は24時間体制ということをテレビで聞いていたので、早速スマホで確認し、電話番号を確認した。私には医学の知識はないが、報道でいろいろ耳にしている。そして目の前の人がどういう状態なのかはきちんと説明できるつもりだ。高熱と咳、呼吸が苦しそうということから都の相談窓口に電話しようとした。しかし、康子がそれを制止した。


「あなた、大げさにしなくていいわ。まだ薬が効いていないのよ。もう少し横になっていれば熱も下がると思う。その上で明日、病院に行ってくる。たぶん風邪よ。心配ないわ。風邪だって熱も出るし咳も出る。ほら、あなたの顔を見たら咳も収まってきた」


 康子はそう言いながらも咳をしている。確かに少し咳はしなくなっていたがゼロではない。私に心配させまいという心遣いなのだろうが、明日、病院に行くというならと今晩はゆっくり休んでもらうことにした。


「でもあなた、風邪でももしうつしたら悪いから、今日はソファで休んでくれない? 私が最初からソファで休んでいたら良かったけど、ごめんなさい、気が回らなかった」


「いいよ、いいよ。おでこに貼る冷却シートを買ってくる。ついでに何か食べるものを買ってくるけど、何か食べたいもの、ある?」


「ううん、お腹は空いていないけど、アイスみたいな冷たいものがあれば・・・」


「分かった。ちょっと待っててね」


 私はそう言って買い物に出た。その道すがら、康子は大丈夫と言っていたが、私の懸念は晴れない。今晩は徹夜のつもりで額の冷却シートを交換することにした。



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