三、婚約者
「マーシア!兄上に絡まれたんだって!?」
モーリスに意味不明の絡みをされるという不運はあったものの、その日の予定をすべて熟したマーシアが、夕食の待ち合わせ場所であるカフェの個室へ行くと、先に来て待っていたカーティスが、慌てた様子で駆け寄って来た。
「あら、耳が早い」
「ギルド長が教えてくれた。ギルドの前で絡まれていたと。もう少し執拗に迫られるようなら、助っ人に行くつもりだったらしい」
カーティスの言葉に、マーシアはなるほどと頷きを返す。
「ああ、そういうことね。あの騒ぎでは、気づかない方がおかしいものね」
「騒ぎ・・・ごめん。君を巻き込んで」
「カーティスが謝ることじゃないでしょ・・・まあ、びっくりはしたけど」
しゅんとしてしまったカーティスの腕をぽんと叩き『あんな体験は、初めてだったわ』と、マーシアは肩を竦めた。
「しかも、あのふたりが揃ってなんて・・・強烈だっただろう。はあ。どうしてまた、マーシアをギルドの前で待ち伏せなんてしたのか」
「『漸く会えた!』なんて言っていたから、待ち伏せというよりは、あちらこちら、私のことを探していたのかも?まあ、グローヴァー公爵家が、私の動向を故意に教えたわけでも無いのなら、だけど」
「それは無い!そこは、信じてくれ」
しゅんとした表情から一転、がしっとマーシアの肩を掴むカーティスの目は力強い。
「もちろん信じているわ、カーティス。試すようなことを言って、ごめんなさい」
「いや。気になることは、何でも言ってくれ。すれ違いなど、絶対にごめんだから。それに、今回の兄上の行動がある。マーシアが、疑念を抱いても仕方ないよ」
はあ、とため息を吐きつつ、カーティスはマーシアのために椅子を引いた。
「カーティスこそ、お兄様のことでお疲れ様。とにかく、心配をかけちゃったギルド長には、明日にでもお礼を言っておくわ」
こういうことは早い方がいいと、ギルドへの礼を明日の予定に組み込むマーシアに、カーティスも頷きを返す。
「その時は、俺も一緒に行く。ほんとにごめん、マーシア。人通りのあるところで、怒るに怒れなかっただろう」
「そうなのよ!怒鳴りつけるわけにもいかないし、何とか体面を保とうと理性を総動員したわ」
よく頑張ったと誉めてほしいと、冗談のように言うマーシアの髪を、カーティスは優しく撫でた。
「兄上は、何というか、人の話を聞かないところがあって」
「本当にそうね。私が<マーシア>で、髪と瞳が<紫色>だから、自分と結婚するべきだ、って言っていたんだけど。あれ、どういう意味?」
兄のモーリスを思い出したのだろう、遠い目になったカーティスに、マーシアは容赦のない一言を放つ。
「マーシアで、紫の髪と瞳・・・・・っ。まさか」
「何か、私が知らなくて、グローヴァー公爵家が知っていることがあるのね?」
ずい、と攻め込まれ、カーティスはこくりと息を呑み込んだ。
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