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二十三、口の固さも、寄付次第。







「まあ。それら、様々なことがあり。元フリント男爵は、娘である元フリント男爵令嬢を自らの手に掛けて、そのすぐ後、自害しました」


「「っ」」


 神殿長の言葉に、カーティスとマーシアは同時に息を呑む。


 それは、自分達の知らなかった、知らされていなかった事実。


 カーティスとマーシア、ふたりの顔には、自分達が聞いた話・・病死では無かったのかと、ありありと書いてある。


「これは、王家とグローヴァー公爵夫妻。そして、実際に埋葬に関わった私を含む、数人の神官だけが知る事実です。当時未だフリント男爵夫人だった女性も、モーリス・グローヴァー公爵子息も、真実は伝えられていません。この意味が、お分かりになりますか?」


 それを受け、神殿長はふたりに忠告するように、鋭い瞳になった。


「無論、口外はしません」


「わたくも、絶対にいたしません」


 誓うように言うマーシアとカーティスに、神殿長は深い息を吐き、頷きを返す。


「誓いの箱のことも含め、私がおふたりにお話ししたのは、ファーロウ大公閣下の願いを受けてのことです。グローヴァー公爵夫妻にも、同じく連絡が行っているかと」


 つまりは、モーリスがマーシアを自分の婚約者にと望み、ファーロウ大公へ自慢するような手紙を書いた結果・・自身が部外者ではなくなってしまったことに起因するのだろうと、マーシアは、知ることが出来てよかったのか、大いに迷った。




 知ることが出来たからって、別に利点は無いのでは?


 どっちかというと、巻き込まれずに、何も知らずにいた方がよかった気がする。


 


「ですが。一体、元フリント男爵は、どのようにして自身の娘を殺害したのですか?それだけの罪が露見していたのであれば、既に市井での生活は営めなかったのでは?」


 迷惑なことに巻き込まれた結果なので『特別にお教えします』と言われても嬉しくないと、渋い顔をするマーシアを横目に、カーティスが神殿長に問いかける。


「ええ。当時既に、彼女は囚われの身でした。そして、公表されたフリント元男爵令嬢の死。それは、広く皆さんが知っている病死です」


 度重なる王家への不敬、そして虚偽の発言、詐欺罪等に問われた元フリント男爵令嬢は、当然、王城の地下牢に捕らえられていた。


 そして近く、公開処刑されることも決定していたという。


「しかし公開処刑が実行される前日。元フリント男爵は、隠し持っていた短剣で、牢の冊に取りすがって泣きわめく娘の喉を、一突きにしたそうです。そして、警備が止める間もなく自身の首を掻っ切ったのだと」


 当然、現場は騒然となり、王家はこの事件を隠蔽するため、さまざまな工作をすることを強いられた。


「牢で父親が娘を殺害したとなれば『思い余って』や『せめてもの親心』などといって、美談にする者も出て来るでしょう。王家は、それを完全に封じるため、元フリント男爵は事故死、元フリント男爵令嬢は牢内での病死ということで、亡くなった場所も違うと公表したのです」


「さまざまな工作、というのがそれですか」


「はい。王都郊外での馬車の事故に巻き込まれ、不運にも命を落とした。それが、元フリント男爵です」


 この国の、貴族名鑑にはそう載っていると、神殿長は緩やかに目を閉じる。


「元フリント男爵が、どうしてそのような蛮行に及んだのか。様々な罪を犯したとはいえ、可愛い娘であったゆえ公開処刑されるよりはと思ったのか、家名を汚した娘を自ら罰したかったのか。ともかく、フリント男爵家は、そこで断絶となりました」


「当然の、処罰ですね」


 直系の息女が、そこまでの事件を起こしたのなら、貴族籍のはく奪も致し方ないだろうと、カーティスも言う。


 そして、そのことにマーシアも異議はなく、貴族としての覚悟だとも思う。


 思うのだけれど。


 


 もし、私がそんなことをしてしまったら。


 お父様も、元フリント男爵と同じように、私を殺すのかしら。




『お前を殺して、私も死ぬ』


 うっかり、リアルに父の声と表情を想像してしまったマーシアは、そんな親不孝はしないと、ぶんぶん首を横に振った。


「エインズワース侯爵閣下は、素晴らしいご息女を持たれたのですね」


「ええ。私にとっても、素晴らしい婚約者です」


「っ」


 そんなマーシアの隣とその前で、ふたりがそんな会話を繰り広げ、はっとしたマーシアは、またも自分が表情・・今度は、行動にまで出してしまったのだと、別の意味で親不孝ではないかと落ち込む。


「そのようにご心配なさらずとも、私は口が固いですから、ご安心を」


 『ですが、そうですね。おふたりのご成婚の日を、心よりお待ちしております』と、それはもう、素敵な笑顔で神殿長は締めくくった。








「あれって。私たちの結婚式は中央神殿で是非、ってことよね」


 神殿を後にしてすぐ『なんか、私のせいでごめん』と言うマーシアに、カーティスは緩く首を横に振り、気にしなくていいと笑みを浮かべた。


「別に気にすることはない。俺達の式は、具体的な日付が決まっていないだけで、中央神殿と、それから、うちの領地の二か所で挙げると決まっているんだから。神殿長のあの言葉は『その日の寄付が、待ち遠しいです』くらいのものだ。それに別に、マーシアの可愛い表情を貴族らしくないなんて言われても、俺は少しも動じない・・あ、いや。俺だけが見られる方がいいのか?」


 ぶつぶつと呟くカーティスに、マーシアは肩の力が抜け、自然と笑みが浮かぶのを感じていた。



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