二十一、誓いの箱
「・・・それでは。こちらが、モーリス・グローヴァー公爵子息よりお預かりしている品になります」
『気遣いは嬉しいが、大丈夫だから見せてほしい』と言ったマーシアに頷いた神殿長が、マーシアとカーティスの前に置いたのは、上質な黒い布に包まれた何かだった。
「これが?兄上の本気だというのか?」
「どうぞ、布をお開きください。そうすれば、おのずと知れますので」
神殿長の言葉に従い、カーティスは、マーシアを見てから布を開く。
「っ。これは」
布に包まれていたのは、金で縁取られた美しい硝子の箱。
その中にあったのは、丁寧に編まれてはいるが、艶を失った紫色の髪と、一対の指輪。
そして《永遠の愛を、マーシアに捧ぐ》と書かれたカード、紫色の髪と瞳を持つ女性の姿絵が入っていた。
「あまり知られていることではないのですが、恋人や伴侶を亡くされた時、このようにして誓いの箱を作り、自身が亡くなった時に共に埋葬することで、再び来世で巡り会えるとい言い伝えがあります」
「そんな言い伝えは、初めて聞く。マーシアは?知っているか?」
不審そうな顔で言うカーティスに、マーシアもゆっくりと首を横に振る。
「いいえ。わたくしも存じません。初めて聞きました」
「言いましたでしょう?あまり知られていません、と・・・。まあ、ここだけの話。この誓いの箱を生み出したのは、財政難に苦しんだ数代前の神殿長なのですが」
ふたりが渡した寄付のおかげか、神殿長は、にこにことそんなことを言い出した。
「つまり。以来、それを商売としているわけか」
「はい。ですが、伴侶や恋人を亡くされた方が前を向き、再び歩み出す手助けとなっているのもまた事実でございます」
悪びれることなく言い切る神殿長に、カーティスもマーシアも呆れるが、それも確かなことなのだろうとも思う。
最愛の恋人、伴侶を失うのは、どれほどの悲しみかと想像し、ふたりは互いに手を触れ合わせた。
「だが、それだとおかしくないか?兄上は、この亡くなった女性に永遠の愛を誓い、己が埋葬されるときに、この誓いの箱を共に埋めてもらうのが目的なのだろう?それなのに、何故マーシアに婚約を迫るんだ?・・・いや、待てよ。第一、兄上には、今既に新しい恋人がいる。それでも、この誓いの箱を埋めるのか?それで、来世でそちらの女性と会って、今の恋人は、どうするというのか。それでも、永遠の愛を誓い続けることになるのか?」
『本命はひとりだから、永遠の愛とか、そういうことか?』と考え込むカーティスに、マーシアも頷きを返す。
「一体、何をなさりたいのかしら。わたくしが、この女性の身代わりにされるということだけは、よく分かりましたけれど」
それは予想通りだと言って、マーシアは神殿長を見た。
「モーリス・グローヴァー公爵子息は、ひとつ、大きな間違いをされております」
「間違い、とは?」
「はい。解釈誤りとでも申しましょうか。モーリス・グローヴァー公爵子息は『死んだ恋人と同じ名、同じ色を持つ女性との間に子を成せば、その子となって恋人がよみがえる』と、信じていらっしゃいます」
神殿長の言葉に、マーシアもカーティスも、嫌悪で顔が歪むのを感じた。
「それは。誓いの箱を作る際、こちらの神殿での説明を何か勘違いしたということか?」
「いいえ。それはありません。こちらでご説明するのは、私が先ほど申し上げた話だけですから」
つまり、自分が埋葬されるときに、この誓いの箱を共に埋めてもらえば、来世で再会できるという話だけだと言われ、マーシアもカーティスも顔を見合わせる。
「では、どこでそのような誤りの情報を得たのでしょうか」
「元フリント男爵夫人から聞いたようです」
「兄上の、今の恋人ですね」
カーティスの言葉に頷き、神殿長は改めてカーティスとマーシアを見た。
「カーティス・グローヴァー公爵子息はお身内ですし、おふたりが、ファーロウ大公閣下をお訪ねになったということは、ある程度聞いて、知っていらっしゃるとは思いますが、この国であった、過去の出来事・・・事件について、改めてお話しさせていただきます」




