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二、勘違い男は、害悪でしかない。







「今日のことは、グローヴァー公爵家に報告させていただきます。そして当然、我がエインズワース侯爵家にも。では」


 忙しいのに、これ以上愚者に関わってはいられないと、マーシアはアルマを促して立ち去ろうとした。


「ちょっと待て!今なら謝れば許してやると言っているだろう!貴様は馬鹿だから分からないのかもしれないが、これを逃せば、貴様は罰せられるということなんだぞ!?エイダの優しさを無駄にする気か!?」


「そうよ!さっさと謝りなさいよ!それで、婚約者がモーリスでないなんて、妄言も取り消しなさい!今なら許してあげるから!ほら早く!」


 公爵、侯爵家に伝えると言っているにも関わらず、その意味が伝わっていないらしいふたりが、ぎゃんぎゃんと騒ぐ。


「ご確認は、グローヴァー公爵家へどうぞ」


 『馬鹿はどっちだ』と言いたいのもまたも堪え、冷静に答えたマーシアに、モーリスがずいと迫った瞬間、マーシアの護衛が間に入る。 


「無礼者!俺が、婚約者であるマーシアと話をしているんだ。護衛風情が、ふざけた真似をするな。侯爵家の護衛とはいえ、躾がなっていないようだな。こんな失礼な奴を娘の護衛にするとは、侯爵の人品も疑わしい」


「グローヴァー公爵子息。失礼なのは、貴方の方です。わたくしの婚約者は、カーティス・グローヴァー。貴方様の弟君(おとうとぎみ)なのですから」


 婚約者でもない男に触れられそうになれば、護衛が動くのは当然と、マーシアは凛としてモーリスを見た。


 その表情は冷静そのものだが、こめかみは怒りにぴくぴく震えている。




 ちょっと。


 この男、今なんて言った?


 うちの腕利き護衛のミックを馬鹿にして、お父様を愚弄したわよね?


 これ、もう許さなくていいんじゃないの?




「マーシア。嘘を吐くのも大概にしろ。エイダも俺も、心が広いとはいえ、限界がある」


「そちらこそ、大概になさいませ。わたくしが婚約いたしましたのは、カーティス・グローヴァー。その婚約の折にいただいたのが、こちらです」


 心底呆れ、怒りながらも、高位貴族という立場上、外で衆目を集めてしまったうえ、怒りに任せて評判を落とすような振る舞いをするわけにはいかないと、もう一度理性を奮い立たせてはっきり告げたマーシアは、婚約の際、カーティスが指にはめてくれた指輪を見せた。


 それは、グローヴァー公爵家の紋章が入ったもので、グローヴァー公爵家後継の婚約者に、代々贈られて来た逸品(いっぴん)


「それが何だ?」


 幾ら愚かでも、長男としてグローヴァー公爵家に生を享け生きて来たのなら、この指輪の意味も知っているはず、否、実際に指輪を見たことが無くとも、家の紋章が入った指輪を贈られた意味を理解するはずと思ったマーシアは、心底分かっていない様子のモーリスに一瞬、言葉を失った。




 え。


 嘘でしょ?


 紋章入りの指輪よ?


 これがあるってことは、家門に名を連ねることを許された存在だって、分かるわよね?


 少なくとも、貴族なら。




「婚約の証にいただいた指輪です。グローヴァー公爵家の紋章、見えますよね?」


「ん?ああ」


 白金で作られた台座に刻まれた紋章を認めたモーリスは、それでも分かっていない様子でマーシアを見返す。


「確かに、うちの紋章だな。だが、だからどうした?」


「モーリス様。あたくしも、グローヴァー公爵家の紋章入りの指輪、欲しいです。その小娘が持てるなら、あたくしだって持っていいはずでは?むしろあたくしには、もっと似合うと思いませんこと?」


「確かに似合うだろうが・・・紋章入りとなれば、父上だけでなく一族の許可も・・ん?マーシア、お前、誰の許可を得て、その指輪を?まさか、盗んだのか!?」


 いきなりエイダが強請り始め、もう本当に帰ろうかとマーシアが思い始めた時、またもモーリスがとんでもない言いがかりをつけて来た。


「こちらをくださったのは、カーティス・グローヴァー公爵子息です。もちろん、公爵夫妻も一族の皆様も承認のうえで、です」


 ため息を吐きつつも、マーシアは懇切丁寧に説明をする。


 まるで、幼い貴族子息に言い聞かせているようだとマーシアは思い、否、その方が可愛げもあるだろうし、教え甲斐もあるだろうと、空想の幼い子息に謝罪した。




 というか、一族承認のその事実を、仮にも長男なのに聞かされていないということよね。


 まあ、顔合わせの時にも不在だったものね。


 それにしても『盗んだのか』って。


 自分の家でしょうに。


 そんなに管理が甘いと思っているのかしら。




「父上も母上も、一族も皆・・・?ということは、本当なのか?本当に、マーシアはカーティスと婚約を?」


「先ほどから、そう申し上げております」




 むしろ、何で信じないかな。


 こうして言葉を交わすのも初めてだというのに。


 この、私は自分と婚約して当たり前っていう、図々しさは何なの。




「そんな・・ばかな・・マーシアで、紫なのに」




 マーシアで、紫。


 そういえば、先ほどもそこに引っかかっていたわね。


 つまり、私の髪や瞳の色、それから名前に何かあると。


 ふむふむ。


 だけど、別に知りたくもないから関係なし、と。


 ではでは、後はご勝手にどうぞ。




「それでは、失礼いたします」


「ちょっと待ちなさいよ!もう!モーリス!どうしたっていうの!こんな小娘相手に!しっかりして!」


 これで漸く会話は終了と、呆然とするモーリスと、その隣で尚もマーシアを貶し、モーリスをけしかけようとするエイダを残し、マーシアはアルマとミックを連れてその場を離れた。


 一応、公爵子息であるモーリスに対し、貴族の嗜みとして、最後もきちんと一礼をして。




 はあ。


 無駄に疲れた。


 出来の悪い長男が居るとは聞いていたけど、あそこまでとは。


 カーティスも、苦労してそう。




「お嬢様。あの男、本当にあの、お嬢様とご婚約されたグローヴァー公爵子息様のお兄様なのですか?」


「残念ながら、間違いないわよ。話すのは初めてだけど、遠くから見たことあるし。まあ、詐称してもすぐ分かることだしね」


 答えつつ、自身も驚いたマーシアは、苦笑して眉を顰めるアルマを見た。


 自分が婚約したカーティスは、人をまとめる力も、事業を推進する力も抜きんでており、あの愚かなモーリスとは少しも似た所が無い。


 


 でも、納得したわ。


 両家の顔合わせにもいなくて『使えない長男』って、お父様が言っていた理由。




 あれじゃあねと呟いて、マーシアは馬車へと乗り込んだ。





ブクマ、評価、ありがとうございます。

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