第1話 魔法使いの少女 ヘルラ
私はヘルラ、魔法使いだ。三人の仲間と旅をしている。皆で焚き火で暖まっているとカルミが不意に私を見た。
「なぁヘルラ。こんなに魔法使って魔力大丈夫か?」
「まだ一割も使ってないから大丈夫だよ〜」
笑顔で答えるとカルミの手からカップが落ちた。彼は目を見開いて固まっている。
「落ちたぞー?」
イリーンが不思議そうに落ちたカップを拾い上げた。中身はもうなくなっていたみたいだ。零れていなくて安心する。
「いやいやいや待て待て」
カルミが正気を取り戻したように動き出した。そしてルグリューの肩を掴む。わぁ、とルグリューは驚いていた。
「どう考えても魔力量おかしいよな?」
「うーん?でもまぁヘルラだからねー」
「平均魔力量を考えろ!」
イリーンが目を瞬いた。そして首を傾げる。
「平均魔力量ってなんだ?」
「あー、イリーンは測ってねぇんだっけ」
彼女は王国出身ではなく、小さな村の生まれだ。私たちの住んでいた王国では十歳になる時に魔力量を測定してもらうのだが、ついこの前まで村で暮らしていた彼女はそんな経験はないのだろう。
「普通の魔法使いなら、ヘルラが今日出した水と炎と結界で半分は使うだろうな」
「じゃあヘルラはすげーんだな!」
目を輝かせたイリーンにカルミはそれだけじゃねぇぞ、と言葉を続ける。
「リュックに無限空間作ってる上に結界維持してるからな」
「つまりやっぱヘルラはすげーんだな!」
「すげぇとかいうレベル超えてんだって……」
「だってヘルラだからね〜」
カルミが頭を抱えている。なんだか大変そうである。ルグリューは変わらずにこにこしているし、イリーンはもうスープを飲むのに夢中だ。
「まともな感覚のやついねぇのかよ……。無限空間作るだけで一般的な魔力量なら尽きるっつーの……」
「えーっと褒められてる?貶されてる?」
「どちらかと言えば褒めてる」
その言葉に素直にお礼を言えば、複雑な表情をされた。不安に思っていたらカルミが私の頭を撫でる。
「頼りにしてるぜ、天才魔法使いサマ」
任せて、と胸を張ればスープを飲み終わったイリーンが抱きついてくる。その勢いで倒れそうになったところをカルミが支えてくれた。皆でくっついているのが羨ましかったのか、ルグリューもそっと寄ってくる。カルミが小さく笑いながらルグリューの手を引っ張った。
「あたしも頼りになるぞ!」
「僕のことも頼りにしてね!」
「はいはい、全員頼りにしてるから安心しろ」
皆の笑顔はなんだかキラキラして見える。頼りになる皆と一緒ならなんでも大丈夫な気がした。