にじゅうなな。
私が考えている魔法。当然水魔法だけど、派生で氷魔法も使える。ということで先ずは水魔法で鳥型魔獣の羽根を濡らして飛行速度か飛行高度を落とさせる。濡れた羽根が乾く間もなく氷魔法を濡れた部分に重ね掛けて凍り付かせるというもの。最初から氷魔法を掛けても表面だけしか凍り付かないのではないか、と危惧していた。凍らせても割られてしまう可能性がある、と。
私の魔力は多い。
でもこれだけの数の魔獣を相手にしたことがないから魔力が持つのか分からなくて悩んでいた。
それに。
ここの魔獣を運良く全て討伐出来てもまだ他の場所にも魔獣はいる。それを考えるとここで私が魔獣討伐に参戦することに躊躇いがあった。
でも。
討伐に参戦して少しでも魔獣を減らせるのなら、少しでも早くこの事態を終息させられるのなら。そして、婚約者としては最低最悪でも王子としては少しは見直せた殿下の気持ちに臣下として応えるためにも。
やれるだけのことをやってみる必要がある。
ーーこの惨状を一刻も早く止めるためにも。
廃墟と化してしまった家や店など。でもそこには日々の暮らしを営んでいた人達が、居た。他愛ない会話。子ども達が笑い合う声。活気溢れる店先の挨拶。きっと、そういう“普通の”暮らしを営んでいた人達が居たはずなのに。
私はその人達のことを思って胸を痛めているだけでいいのか。……違う。
私は守られているだけでいい生活を選ばなかったのだから。私は私がやれることをしなくてはならない。
お母様とお父様と師匠が考えて作ってくれたローブやブーツ。これは教会に行って私の無事を祈ってきた、と言って渡してくれた。でも受け取る時にお母様の手が微かに震えていたことを覚えている。
私とパッドリーを愛してくれているお父様とお母様。子どもが危険な場所に向かう、と分かっているのに私のやりたいことを優先してくれる。魔獣討伐の地へ赴いて無事に帰るだけで喜んでくれるお父様が私を抱きしめるその肩が震えていることを知っている。無事に帰ったことを安堵したことによる震えだ、と。
無邪気に魔法を使える姉様はカッコいいと言っていたパッドリーが大きくなるにつれてそれだけではないことに気づいたのだろう。私が帰ると泣きそうな顔で笑ってお帰りなさい、と駆け寄って来る。それは魔獣討伐だけじゃない。王城へ赴いたり外出したり。それだけでも不安がっている。きっとそれは私の立場が第一王子殿下の婚約者という、他の令嬢達やその親達から常に狙われている立場だと理解したから。
……そんな私の家族のように、きっとこの廃墟と化した家の一つ一つに、互いを思い合う家族がいたはず。
そのことを考えれば、私は躊躇っている場合じゃない。
大きく深呼吸をする。
魔力が身体に循環されているのを感じる。
目を閉じてイメージする。
パラパラとした小雨などではなく、大粒の土砂降りのような大雨が鳥型魔獣に降り注ぎ、飛ぶ力を落としていく。
そこへすかさず氷魔法で全身を凍りつかせる……いえ、全身じゃなくてよい。羽根だけに集中して凍り付かせる。その代わり、岩よりも固い強度を持つ氷で凍り付かせて、飛行速度と飛行高度が落ちた魔獣を大師匠や師匠が仕留めていく方法に。
大師匠は火魔法と風魔法が使えるし、師匠も風魔法と土魔法が使える。普通の魔法士は一つの属性しか使えないから、師匠も大師匠も凄い人達。でも他の魔法士達も魔法士であるだけに、一つの属性が特化されているから。皆さんにもトドメを刺してもらうことだけを考えて、私は魔法を使う。
「アクアランス」
イメージしたのは水を槍のように見立てて大量に上から降らせる土砂降りの大雨。
ザーではなくゴーッとした水音。
自分の魔法だけどちょっと立っていられないくらいの、雨をイメージした。
鳥型魔獣の動きが鈍ったように感じる。すぐ側に居るダンに尋ねたいけれど、声なんて掻き消されるだろう。自分の魔法だけど目も開けられないほどの水。それでも片目で師匠を探すと、師匠が私を見ていて、大きく頷くのが見えた。きっと、動きが鈍ったという意味の頷きだろう、と判断する。
だったら。
「グラス!」
自分が放った水魔法に負けない大声で、イメージ通り羽根を凍り付かせるように叫ぶ。
ピキピキだかパキパキだかそんな音が耳に届くと同時に私の視界に入っていた全ての鳥型魔獣の羽根が凍り付いていく。
アクアランスはグラスの魔法と同時に消えているから、凍り付いていく音が聞こえたのだろう。
「よくやった! さすがポリーナっ」
「でかした! 孫弟子よっ」
師匠と大師匠の褒め言葉が届く。
私のイメージ通り、視界いっぱい……空いっぱいに埋め尽くされていた鳥型魔獣が一斉に高度を落としていく。
後は任せろ、と言ったのは誰の声か。判別する間もなく鳥型魔獣の首が切り落とされていく。高度が落ちた鳥型魔獣だから風魔法で首を切り落としていくことも簡単なのだろう。
ちょっと魔力の減りが凄い私は力が抜けてふらつきながら、でも私を支える手を……護衛のダンの手だろうと思う。それを背中に感じながら、その様子を見ていた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
にじゅう。話で大師匠・ハイドがポリーナの曾祖父と知り合いという描写をしていましたが、正しくはその上にあたる高祖父(曾祖父の父親なので)です。ポリーナの父から見て曾祖父。ポリーナから見て高祖父。訂正してあります。




