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にじゅうご。

「待て」


 外に出た途端に背後から声がかかり驚く。

 振り返らずとも私にこのような物言いが出来る立場の人は数えられる程度しかおらず、今この場においては魔獣討伐中の大師匠と師匠が呼びかけてくることが出来ない以上、たった一人しかいない。


「何用でしょうか、殿下」


 そして、そのたった一人にこれまで声をかけられることなど数える程度だったし、これまではその内容に予測もついていたので驚くことは無かった。いやまぁ、声を掛けられるのね、という意味では驚いたこともあるけれど。

 だから。

 今、声を掛けられたことは本当に驚いた。……どんなことを言い出すのか予測もつかないから。

 というか、結界の内側なら少しは安全なのに何故出て来たんだ、この殿下は。大人しくしていればいいのに。お陰で護衛も出て来てるじゃん。結界の意味、とは。

 いや、話をさっさと聞いてご満足頂くためにも私がもう一度結界内に入って話を聞くか。僅かに溜め息を落とした私は、殿下を結界の内側にもう一度案内して自分も話を聞くために結界内に入った。

 やや躊躇っているような殿下は二回ほど口を開閉した後で。


「あの、空を飛んでいる魔獣だが」


 そう、切り出してきた。

 魔獣? 何を言いたいのか分からず相槌も打たずに次の言葉を待つ。


「空を飛ぶ相手に火を放ったり風で切り傷を作ったりしているが、ああいった方法しかないのか?」


 水魔法と土魔法も使ってますけど。

 まぁどちらもトドメにはなってないだけで。

 土魔法は土の塊を胴体に打ち込むか上から塊を落として飛行高度を落とす形だし、水魔法も羽根に当てて飛行速度と高度を落とす形だものね。そこに火魔法を放って燃やすか、風魔法で更に飛行速度や高度を落としてから風を刃のように鋭くさせて羽根や首を切り落としている。

 だからトドメに関しては風と火の魔法なのは確かだけど……。トドメってこと?


「息の根を止める、という方法でしたら他にもございます。例えば土魔法でしたら土砂を魔獣の上に降らせて窒息させる。水魔法でしたら水の球を顔全体に覆わせて呼吸が出来なくなっての窒息。といった具合に」


「ならば何故火魔法を使う? あれでは周囲も焼き払われてしまい、森や空き家などまで燃え広がってしまう」


 ーーああ、そういう心配か。

 なるほど。確かにこの人は国を民を想える王子。王太子位の座に相応しいと言われる所以の一端が垣間見える。このようなことがこのような場面で言えるからこそ、納得出来る。

 人というものは、危難に遭った際や追い込まれた状況などによってその本質を見せる、というのは大師匠が書いたという書物の一節。その仮説を信じるのであれば、王族のパフォーマンス、を見せる民が居ない現状……それも魔獣という脅威の相手がいる言わば中々のピンチである現状……で、このような発言が出来るのは、本質が垣間見えていると思ってよいはず。

 だから国を、民を想う心は真実なのだろう。

 ちょっとは見直した。……だからといって私がされてきたことを許したわけではないけれど。


「左様でございますね。確かに殿下のご懸念は理解致します。尤も魔獣が現れた時点で民の避難はしてありますが、それはそれとして周囲に燃え広がることを私たち魔法士だって受け入れているわけでは無いのです」


 そりゃ火魔法よりも水魔法か土魔法で討伐出来る方がいいよ。だってさ、見える範囲で鳥型魔獣が数え切れないほどで。更には広範囲なんだから。今、この場に居る魔法士はこの国の全ての魔法士。

 ーー全て、だ。

 土魔法も水魔法も使える魔法士は居るよ。

 だからトドメを刺すこともしていたよ。

 でも。

 数が多過ぎる魔獣。

 数が少ない魔法士。

 そして。

 どれだけ魔力があっても魔法を使い続ければ魔力は減っていくだけ。枯渇しては魔法士の命に関わるし、休まないと魔力は回復しない。回復してもそこから増えるわけじゃない。器の量は決まっていてその器が大きくなることは普通無い。

 私や大師匠は通常とは違うから器が大きくなったけれど、だから大師匠が一番討伐しているわけだけれど。それでも圧倒的にあちらの方が数が多い。

 討伐した直後から次がくるような現状。枯渇させるわけにはいかない魔法士。……そして大師匠よりも魔力が多い者は誰一人として此処には居ない。この国の魔法士が全て此処に居て、大師匠を超える魔力持ちなんて居ないのだ。

 その大師匠は火魔法の属性と風魔法の属性だからトドメを刺しているのは殆ど大師匠で。

 殿下の望む土魔法や水魔法の仕留め方が出来る魔法士は交代で休んで魔力回復をしながら討伐に参加していて。

 最低限、魔力が回復すれば討伐に戻ることを繰り返しているからトドメを刺す魔法なんて使えない。大技であるので結構魔力を消費する。

 ーー可能性があるとしたら。

 私、しか居ない。

 でも私は師匠からもお父様からも討伐そのものに参加することは許されていない。……どんなに歯痒い思いをしていても。

 だから、殿下の想いは理解したものの現状は。


「魔力量の問題と魔法の属性の問題で。殿下の仰る通りには今は出来ないのです」


 ご理解を、と頭を下げた。

 それでも殿下が結界の内側へ戻る気配が無い。

 私の言うことは理解出来ているとは思うけれど、国のことを考えれば他の方法があるのに、とでも思っているのかもしれない。ーー私がそう思うから。


「殿下の護衛たち。殿下を結界の中に」


 私は一応殿下の婚約者。殿下の命は出ていなくても私の立場でなら、命じることは可能。他国でもそうだけれど、この国でも王族の婚約者という立ち位置の者は準王族と見做されるから。

 王族の命令の方が優先されるが、現状は殿下の御身が大切だと考えている護衛としては、殿下の命令も無いことから私の命令を聞き入れるはず。案の定護衛たちは直ぐに命令に従った。

 殿下は難しい顔をしているが、抵抗は無い。私の言ったことを理解しているからだろう。

 ーーこんなに殿下とまともな会話をしたのは、初めてのことかもしれない。

 で、あるならば。

 初めて建設的な会話を交わそうとした殿下の気持ちに応えるのは臣下として、私が出来ることか。これで殿下との仲が上手くいくとは思ってないし、上手くいきたいと思ってもいない。

 それでも。

 魔法士という立場を鑑みて。筆頭公爵家の者という立場も鑑みて。殿下の婚約者という立場をも鑑みて。

 私は、師匠と大師匠に頼む事にした。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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