じゅうはち。
師匠から話を聞くと今回の討伐の場所は王都から七日から十日くらい離れた位置だという。広範囲だから簡単に行って帰って来られないし、どれだけの時間が掛かるのか見当もつかない、と。
最初の魔獣討伐から今まで私を連れて行くに辺り私が怖がることがないように、いつも穏やかに気遣ってくれていた師匠は、今回私に誕生日の祝いを口にした時だけ微笑み、あとはずっと顔が固い。それだけ大変なことが起きているとしか思えなかった。
「もしかしたらポリーナも治療魔法だけでなく戦闘してもらうかもしれない」
「分かりました」
「ただ、治療魔法の方が重要だ。ポリーナの治療魔法は、本当に貴重だから」
師匠がずっと気難しい顔をして私にそんな警告までする。やはりいつもとは違う事態なのだろう。だからこそ私は戦闘より治療を重視して魔法を使って欲しい、と師匠は改めて口にしている。
公爵家の娘である私のために宿をなるべく取ろうと考える師匠やダンを含めた護衛五人。だけど私はクビを振った。
「宿を取る時間や場所の確保は急ぐ今、手間でしょう。野宿で構いません」
本音を言えば野宿は嫌。虫が集まって来るのを追い払うのでいっぱいいっぱいになるし、きちんとした寝具で寝るわけではないから睡眠不足になる。
それでも。
今はそんなことを言っている場合じゃない。
虫が寄ってこようとフカフカの寝具で寝られなかろうと、一刻を争うのなら我儘を通している場合じゃない。
師匠は少し迷ったようだったけれど、一つ頷き野宿の選択を取った。やっぱり一刻を争う事態だと分かる。という事で、せめて虫避けにならないか、と考えに考えて水で周りを囲うことにしてみた。
「師匠」
「うん?」
「水で周囲を囲んだら虫は来ないでしょうか」
「……えっ、そんなことを真面目に考えていたのかい?」
私の真剣な表情に何事を考えているのか、と思ったら……と師匠が呆れたけれど、その後、身を守る結界みたいなものか、と納得していた。
「イメージは?」
「私の魔力を一晩中巡らすとなると、地点の樹木から地点の樹木……所謂旅人達の憩いまでを囲う感じでしょうか」
師匠が驚いた顔をした。
えっ、変なことを言った?
「待って。ポリーナの魔力量はそんなに多かったかい?」
「年齢と共に増えました」
「いや、そういう問題じゃないけど⁉︎ 地点の樹木というのは、旅人が王都の周囲を囲む塀からどのくらい離れたのか、ということを知るために3キロごとに植えられているアレ……その樹木の下で旅人が身体を休めることから、別名旅人達の憩いって言われている樹木のことだよね⁉︎」
その通り、と頷く。
「えっ、ポリーナ、3キロ以内をグルリと一晩中、水の結界が張れるってこと⁉︎ 私でも一晩中は無理だよ⁉︎ 一晩中張るならせいぜい1キロ以内なんだけども!」
師匠の愕然とした表情と声に、どうやら私は師匠超えの魔力を持っていると知った。……なんかごめんなさい、師匠。
私が何とも言えない顔をしていたのが分かったのか、師匠がちょっとだけ凹みつつ、まぁイメージ通りにやってご覧? と促してくれる。ちなみに呪文は「アクア バリアかな」と教えてくれた。
そんなわけで私達が野宿をするために拠点とした地点の樹木の周囲を囲むようにイメージする。
次の所まで範囲を広げる必要は無くて、この周囲を囲めれば良いだけなので、拠点とした地点の樹木の周囲を円を描くようなイメージで。私たち全員を囲むように。
幸いと言うのか、他に旅人が居ないから水で結界を作っても抗議されることは無さそう。
「アクア バリア」
イメージが固まった所で呪文を唱えると発動したことが分かるように魔力が消費される。
例えて言うのなら噴水の中から外を見たようなそんな揺らぐ景色。けれども水はあまりにも透明で結界に触れなければ揺らいだ景色が結界が出来る前と変わらずに見えるほど。
かと言って、結界の目的である虫はと言えば、羽の生えているものは一匹残らず入って来られないくらい。虫が触れる度に揺らぐ景色も追い出されて入れなければ、揺らぎが収まり何も無いかのように見える。
つまり、虫が入って来ないという、目的は達成されているので成功していると言える。
「はぁ……弟子が見事な結界を張ることが出来て、師匠として立つ背がないよ」
とボヤキつつも、よく出来ているよ、と変わらずに私の頭を撫でて師匠が褒めてくれた。……十五歳ですよ、私。そうは思うけれど、やっぱり師匠から褒められるのは嬉しくて、えへへ、と口元が緩んだのが自分でも分かった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




