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じゅう。

 私の知っている限りではあるけれど、ここの孤児院と修道院の運営におかしな所は無い、と思う。それは殿下の目から見ても同じだったようで帳簿の確認が終わった後は施設内を一回り。そしてここの孤児院を出立した。

 次の施設を目指す馬車内は相変わらず無言。もちろん乗り降りは御者が手を貸してくれたし、当然私から殿下に話しかける気も無い。今度は私が窓の外を眺めていた。……前方からなんだか視線を向けられている気がするけれど、そちらを見る気はないので無視。話しかけられれば相手をしなくちゃならないだろうけれど、それが無いから放置。

 そんなことを考えている間に馬車が停まる。王都内の七箇所の施設だから、いくら王都が広くても孤児院と修道院が併設されていることを考えれば、それなりの大きさではあるので、施設から施設の距離は然程遠くはない。先程と同じような出迎えの流れ、と思いながら御者の手を借りて馬車から降り、チラリと殿下の従者を見る。

 コクリと頷く姿から、先程と同じく帳簿の確認と施設の確認といったところか。

 この孤児院も修道院も私は来たことが無いから、丁寧に見て回りたいな、とも思う。

 まずは挨拶をしなくて……えっ。

 私は挨拶をしなくては、と考えていた矢先に出迎えの者達を見て唖然とした。……内心で。


「ようこそいらっしゃいました!」


 やけに大きな声で大げさに歓待する素振りを見せる院長。

 その隣に立つ修道女は三人。但し三人共に元々痩せているのか、それとも違う理由なのか、痩せっぽち。年齢は多分私より十歳以上年上だと思う。痩せた姿が実年齢より年上に見えている可能性もありそうだけど。

 そして何より異様なのが目元だけが出ていて後は顔全体を覆っていること。

 全ての修道院と孤児院を訪問していないから分からないけれど、私が訪ねたことのあるいくつかの修道院では修道女の顔が全て見えていた。目元以外が覆われている修道女は初めて。

 さて。

 こんなにあからさまに「何かあります」と声高に叫んでいるような状況だけど。本当に何かあるのかそれとも何かのパフォーマンスか……或いはただ此方を見定めるためにわざとらしく何かあるように見せかけているのか。

 ……殿下はどう判断するのかしらね。

 殿下は見事に歓迎を喜ぶように微笑みを浮かべ、その顔のまま私をチラリと見て手を差し出してきたので、その手に再び指先を乗せた。

 私も同じく微笑みを浮かべて院長達に向き直る。


「第一王子殿下にはご機嫌麗しく。当修道院と孤児院に足をお運び下さいまして、ありがとうございます。初めてのことですので案内は院長である私めが務めますが粗相をしないよう、精一杯務めさせていただきます。おお、仲の良さそうなそちらは聞いておりましたご婚約者様でいらっしゃいますな。これはまた美しいご令嬢ですな。殿下と並び立っても遜色ない。ご令嬢もどうぞよろしくお願いします」


 随分と口の回る院長だけど。

 その口通りに軽薄なのか、それとも見せかけか。

 ーーそれにしても、仲が良さそう、ねぇ。並び立つ、ねぇ……。

 微笑みを浮かべた顔を私に向けたことも、こうしてエスコートされたことも、当然並び立つことも、今日が初めてですけれどねぇ。

 ……ついでに言えば、作り笑いとしか見えない微笑みでも私に向けられたことに心底驚きましたが、だからといって、トキメキ? 何それどんな食べ物ですか? ってくらいでしたし、嬉しい! 初めての微笑みだわ! ……なんて頭の中でお花畑が広がることも有りませんでしたし。

 こうしてエスコートのために手を乗せていますけど、嫌悪とまではいかないまでも、離していいなら離したいですけれどねぇ。

 今まで一度も無かったことを急にやれ、と言われても気持ちは追いつきませんよ。まぁこれもまた貴族の義務で婚約者の義務だと思うので、頑張ってますけどね。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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