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きゅう。

「ようこそいらっしゃいました、第一王子殿下並びにご婚約者様」


 院長がにこやかに挨拶をする。私は外向きの笑顔を乗せたけれど、同じく殿下も外向き用の笑顔を浮かべた。一応隣だからチラリと視線を向けたのよ。

 誰、コレ?

 レベルで別人。

 柔和な笑顔。

 此処まで王子の仮面を被れるの、ある意味凄いと心の籠らない賞賛を贈る。

 私だけに会う時は、顔を合わせると不機嫌な顔しか見たことないので。私も諦めて多分無表情の沈黙を貫いている自覚はある。でも歩み寄る気もない人に歩み寄る気は失せるよね。それを思えば王子の仮面を被って対外的には面子(めんつ)を保っていることは大事、よね。うん。私も対外向けには良い婚約者の仮面を被る必要があるし。

 ……それは後々王子妃になった際も必要なわけだし。仮面、いくつも被る必要になるのかしらね。まぁそれは後で考えるとしよう。今は今日の公務を無事に乗り切る事、よ。


「出迎えありがとう。今日はよろしく頼む」


 殿下の返答に恭しく頭を下げる院長に私もよろしくお願いしますね、と頭を下げてから時々会う孤児たちに視線を向ける。ニコッと笑えば緊張していたらしい男の子も女の子も「わあっ」と声を上げて喜んだ。私が時々来る“リーナちゃん”だと分かったらしい。

 此処に訪れる時もワンピースは着るけれど殿下と来たことは一度も無かったから、王子様と一緒ということに驚いたのだろう。尚、ポリーナと名乗らずリーナと名乗って子ども達とは接していたのは、別に名前を隠す意図があったわけじゃない。

 リーナというのはポリーナと呼ぶのが難しい小さい子達のための呼び方。大きくなってもそのままリーナちゃんと呼ばれているに過ぎない。私に近づく子ども達に合わせて膝を折る。途端に膝上に乗って絵本を読んで、という男の子や人形遊びをしたい、という女の子。いつもなら時間の許す限り対応をしていたけれど今日はそれが難しいだろう。


「ごめんね、今日は一緒に遊べないの。また来るからその時はたくさん絵本を読んで人形遊びをしましょうね」


 私の言葉に皆が落ち込むけれど、平民向けに販売されている紙と色付きペンを渡すと笑顔が戻ったので安堵する。受け取る子達を見ながら、栄養不足で痩せてないか、とか、週に一度入れるはずのお風呂に入れていないか、とか、様子を見るが大丈夫そうで安心する。

 そこでふと人の気配を感じて振り向くと、なんだかやけに近い距離で殿下が立っていた。眉間に皺を寄せてどうも睨まれているらしい。何故睨まれるのか意味が分からないけれど、問うことはしない。貴族どころか平民にまで殿下とその婚約者の仲がよろしくない、と知られるのも少々問題だから。

 何が気に入らないのか、それはさておき。

 対外向けの笑顔を殿下に向けてから立ち上がる。それからエミルとダン、それに殿下の侍従へ視線を向ければ、エミルとダンはスッと頭を下げて私の背後に。侍従は私の視線に我に返ったのか、エミルに何やら話しかける。

 それを聞いたエミルが私に内容を話す。一応、殿下の婚約者である私に直接話しかけるのは無礼だと思ってのことだろう。


「この孤児院と修道院では滞りなく運営が為されているのか、という確認だそうでございます。帳簿も見せて頂く、と。尚、他の修道院と孤児院もそのように、と」


 なるほど。

 自分の懐を潤すようなことが無いか、チェックするということね。

 尤も、殿下が行く、と先触れを出しているのならそんな不正があったとしても、マズイものは隠しておくでしょうけれどね。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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