イチ。
ようやく。
ようやく婚約者が王家主催のお茶会に参加する、という返信をもらった時の私の気持ちは安堵、だった。
これでようやく婚約者の立場は守れるし、婚約者が参加しないことについて周囲から尋ねられることもなく、そのことに神経を尖らせる必要も無くなるのだーーと。
それと初対面で失礼なことを言ってしまったことをこれを機に謝ろう、とまで考えた。婚約者であるレバーム嬢が歩み寄ってくれたからには此方もそれ相応に歩み寄る必要があるだろう、と。
……いや。
本当はもっと早くから謝るべきだったし、その機会は今までもあった。直接言えなくても手紙を送れば良いことも分かっていた。それをしなかった……出来なかったのは私の弱さだ。
ただ、レバーム嬢だって中々に強情だと思う。いくら失礼な発言をしたとはいえ、当時の私は子どもだったわけだし、その辺は仕方ないで笑って流してくれてもいいわけで。
そんな気持ちがあったから、余計に謝る気持ちになれなかったの確か。
けれど、ようやく彼女が此方に歩み寄る姿勢を見せてくれたのだから、私も歩み寄る姿勢を見せる必要がある。
レバーム嬢に謝りお茶会ではエスコートをして仲の良いアピールをして、レバーム嬢を蹴落として婚約者になろうと群がる令嬢達の牽制も行える。正直なところ、彼女達を遇らうのも疲れてきていたので助かる。
……そう、思っていたのに。
侍従から父上が呼んでいると言われて急ぎ執務室を訪れた。
「もう、一度お聞きしてもよろしいでしょうか」
信じたくないことを聞いて尋ね返す。
「もう一度も何も同じこと。ポリーナ嬢は王家主催のお茶会を欠席すると連絡が来た」
「何故、でしょうか」
ようやく私も歩み寄る決意をしたというのに。
その決意を台無しにするような……
悪態を吐きそうになって口を閉じる。
「昨日のことだ。リカーデ家で茶会があった」
リカーデ。公爵家だ。それが?
「ポリーナ嬢はそこでお茶会デビューを果たし、成功を弾みに王家の茶会に出る心算だったようだ」
「……ということは失敗した、と?」
欠席の連絡が来たということはそういうことか、と納得したが。
「ポリーナ嬢自体の茶会は成功したと言えよう。いくつかの家に昨日の件で話を聞くのと同時にポリーナ嬢のことを耳にしたのでな」
「父上……回りくどいのですが、つまり?」
成功したのに欠席とはどういうことなのか、と先を急いて尋ねる。
「ポリーナ嬢の茶会デビューは成功した。が、問題が起きた」
「問題?」
「リカーデ家に侵入者が現れた。若い男だがどこの家の者とも知れぬ。当然リカーデ家の者に在らず。男はナイフを持って茶会の場に現れた。
その際、日の光がナイフに反射して光ったことにより何人かの令嬢が異変に気づいた。その異変に危険を感じ取ったのはポリーナ嬢。
即座に魔法を展開して不審な男に攻撃した。と言っても過剰なものではなく、ごく弱いものだったようだが。
当然茶会は中止。令嬢達は全員家に帰った。その件をリカーデ家から申し出られたが。不審者の尋問はしていても背後関係も何も分からない。
ただ、リカーデ家は事前に第一王子殿下の婚約者が狙われているという不穏な情報を手に入れていたらしい。まさか自家でそのようなことが起こるとは思っていなかったようだが。
ポリーナ嬢はリカーデ家からのその忠告を聞き入れて、王家の茶会とその後に参加予定だった茶会を取り止めたのだ」
……そんな話を聞かされては、歩み寄りも何もないし、私の決意などゴミにされても当然だ。
抑々、私がさっさとレバーム嬢に謝ってもっと婚約者として交流を深めておけば良かっただけのことで、私の決意も歩み寄りの意思も彼女は知らない。
そしてそれを踏み躙られた、と理不尽な怒りを抱くこともお門違いだと分かっている。
結局、私は分かりました、と引き下がるしかなかった。
そしてまた、彼女に謝る機会を失い、なけなしの歩み寄りの意思も萎むことになってしまった。
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