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よん。

 陛下に至急という事で呼ばれたらしい文官さんは、陛下に第一王子殿下にお父様と私が居ることに疑問を抱いている様子。……まぁそうだと思う。陛下に私が言ったことを公文書として正式に作成するよう命じられて顔に「えっ、こんな幼女のためにわざわざ呼ばれたの?」 と書かれたものを乗せて私を見る。

 ……まぁ気持ちは分かる。


「初めまして、文官様。私、ポリーナ・レバーム。レバーム公爵の第一子で五歳でございます」


「五歳⁉︎ あ、いや、済まない。ご丁寧にありがとうございます、レバーム公女。私は平民出身のアルと申すもので、姓は有りません。ですので、公女に頭を下げて頂くことは不要に願います」


「平民出身でも、陛下が信を置く公文書作成が出来る文官様であるのなら私も敬うものだと思っております。アル様こそ、五歳児に丁寧な対応はせずとも構いません」


「……遠慮なく。ええと、公女は本当に五歳?」


「はい。レバーム公爵である父に尋ねてみても構いませんが」


「いえいえいえ! 滅相もない!」


 やっぱり王城の文官という平民出身者のエリートでも公爵であるお父様は怖いのかしら。まぁいいか。


「左様でございますか。では改めてアル様にはきちんと作法に則った書類を作成して頂きたいと思います」


「承りました。どのような書類でしょう」


「私と第一王子殿下は本日婚約致しました。初顔合わせにございます。ですが、殿下は些かこの婚約に思う所があるご様子。ですので、取り決めを書類として残し、公文書……つまり公の書類とすることで、殿下だけでなく我がレバーム家も納得のいく契約書を作成し、王家と公爵家だけでなく第三者から不当な言い掛かりを付けられないよう、公開出来るようにしておきたいのです」


「つまり、公女は、後々誰かがこの婚約に横槍を入れて来ないようにしたい、と?」


「横槍を入れることは不可能でございます。もう国王陛下直々に締結されたことを仰られましたので。ですがどのような条件で結ばれた婚約なのか、王家と公爵家だけが分かっていることに不満を抱く第三者も居るかもしれません。そこで公文書として作成して頂き、誰でも求めに応じて立会人付きで婚約に関する契約書を見ることが出来る、とすれば不満も解消出来るか、と思い至りました」


 アル文官は、本当に五歳? ともう一度確認して来たので本当です、と答えました。嘘偽りなど有りません。取り敢えず、アル文官は理由に納得出来たようですので、では作成しましょう、と言ってくれました。


「では、先ず王家の条件を伺っても?」


「余はない」


 アル文官が陛下を見れば、陛下はあっさりと一言。アル文官がえっ、と驚く。


「では……公爵家は」


「私もないが、ポリーナはあるのか?」


「ございます。先ず、殿下はこの婚約について、ブサイクな私と婚約したくない、との仰せです」


「えっ、こんな可愛いのに、ブサイク⁉︎」


 アル文官、素直なお言葉をありがとうございます。ですが今はそこの説明をするのは省かせてください。


「ありがとうございます、アル様。ですが話を戻しますね。殿下はブサイクな私と婚約をしたくない、との仰せですが、国王陛下直々に締結を宣言なされた以上は、この婚約は覆らないものです。となると、婚姻は必須です。この婚約の要は、魔力持ち同士から生まれた子は魔力持ちである、という推測に則って、魔力持ちの子を増やして魔法使いを増やすという計画です。ですので、婚姻し、子を作り産むまでが契約となります」


 五歳なのに子を作り産むと発言した私を、アル文官は二度見していますが、でもそういうことなのです。


「ですが、殿下は私がブサイクだと仰る。ブサイクな私と口付けを交わし閨事を行うのは苦痛かもしれません」


 閨事、と言った瞬間、アル文官とお父様と国王陛下がギョッとした顔を見せ、殿下は首を傾げました。殿下はまだご存知ない、と。


「ポ、ポ、ポリーナっ」


 お父様が慌てふためいてますね。


「仕方ないです。私が生まれて一年も経たない赤ちゃんだった頃に、私の部屋にて私についていた護衛と侍女が恋仲だったようで、今夜はどう? とか、そんなことを言っていましたから。護衛に誘われた侍女が赤ちゃんの居る前で閨の誘いをしないで、とか言ってましたからね。三歳を迎えて辞書を読んだ時に言葉を調べて意味を理解しました」


「ポリーナ……」


 あ、父が涙を流して膝から頽れた。

 具体的にどんなことをするのかまでは知らないけど【子を作る行為を指す】って辞書に書いてあったわけだから、婚姻したら子を作る行為があるんでしょう?

 だから、私がきちんと話せるようになったら、護衛と侍女を弟付きにはしないでね、と念押ししたの。……そういえばあの二人、あの時は婚姻してなかったはずだけど子が作れたのかしら?

 あの護衛と侍女、私が赤ちゃんの頃から理解力が高いことを知らなかったからそんなイチャイチャな話をしたのだろうけど、勤務中に何をやっているのかな、とは思った。まぁ勤務中なのに何をしているんだ、という職務怠慢。故に罰は必要だと思っているから、父に話をしたではないですか。それで十日間の謹慎って二人に命じたのは父ですけどね。

 あの二人、まさか赤ちゃんに聞かれているとは思わなくて不当だ、と言ったものですから覚えていた内容を私から聞かされて赤くなったり青くなったりして、謹慎処分を最後は受け入れていましたけど。


「お父様、ごめんなさい。悲しませてしまいましたね。でも私が言葉を理解している、ということはこういうことなのです」


「ポリーナ……」


 私が苦く笑うと五歳児のする顔じゃない、とお父様が辛そうに頭を撫でてくれます。


「公女様は……頭が良いだけでなく、その分だけお辛いこともありますね」


 アル文官の言葉に目をパチパチとさせた私は、ありがとうございます、と頭を下げました。この方いい人だ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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