に。
「お父様、ご挨拶をさせて頂きたいのですが」
「ああ、そうだったね。陛下、我が娘・ポリーナにございます」
陛下は殿下の暴言を聞かなかったことにした父と私に感謝したような顔を見せてから仰る。
「ポリーナか。挨拶を許す」
「初めてお目にかかります、国王陛下、第一王子殿下。レバーム公爵家第一子・ポリーナがご挨拶申し上げます」
「ほう。本当に五歳か? まるで大人のような口振りだな」
陛下は感心したように頷き、殿下を見る。
「そなたも挨拶を」
陛下に促されたのに第一王子殿下は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いている。
あれか。
暴言を聞かなかったことにされたことが悔しくてせめてもの抵抗、といったところ?
「セスター」
再度陛下から促されてもまだこちらを向かない。
「済まないな、公爵、ポリーナ。セスターは第一王子だ。ポリーナの二歳上。今日から婚約者同士。よろしく頼むぞ」
「畏まりました」
「父上! 私はこんなブサイクな女は嫌です!」
陛下が名乗りも挨拶もしない殿下に代わり名前を教えてくれたし、婚約者と言い切ったので父が了承した途端、殿下がまたも私をブサイクと言った。
うーん……。
隣の父が笑みを浮かべながらも顔を引き攣らせてるんだけど……器用だね。
「セスター! これは父ではなく国王としての決定である!」
さすがに陛下が叱り付けた。しかも国王として、と言ったからには覆らないね。殿下も七歳とはいえ王子教育が進んでいるのか、国王としての決定に逆らえないことを理解したように黙り込んだ。
……でも私を睨んでますけども。
殿下の睨みより父の怒りが怖いなぁ。
ふむ。
逸らせてみようか。
「国王陛下、発言の許可を頂けますか?」
「なんだ? 構わぬ」
「では、陛下の臣下から公文書類を草案、奏上、清書出来る方をこの場に招くことは可能でございましょうか」
「ポリーナ……そなた、本当に五歳か? 臣下に公文書類に草案に奏上に清書などという言葉が出てくるとは思わなかったぞ」
「陛下のご質問に恐れながらお答えさせて頂きます。私は間違いなく五歳です。父も母も存じております。私は何故か赤ちゃんの頃から大人が使う難しい言葉が理解出来ました。そのお陰で外国語も楽しく覚えております」
「そうか。他は何が理解出来る?」
「本は母が言うには、十歳年上の方が読む物語を読んでるのね、とのことです。王家の歴史書と国の歴史書が楽しいです。魔法書も読むだけは読んでますが理解出来ていません。計算は五歳の子相当だそうです」
「ふむ。読むことで理解出来る物と出来ない物があるのか。歴史は読めば分かると? 外国語も出来るのだな? 魔法は理解出来てない……」
「魔法は実践しなくては分からないので理解出来ません。国の地形も分かりません。領地の特産品などは覚えられました」
「差があるのだな。ところで何故、公文書類を扱える者を招きたいのだ?」
「陛下も認められるような婚約に関する契約書を作成したいと思いまして」
「契約書……。本当に五歳か……?」
「はい! 三歳の時に言葉の意味を載せている辞書なる物を読みましたので、意味は分かります」
陛下が感嘆の声を上げる。
何故なのか知らないけれど、私は言葉に関しては記憶力も良いし直ぐに覚える。本も読むだけで覚えられるけれどそれだけで理解出来ない分野もある。
赤ちゃんの頃からだから私自身も分かっていない。
「三歳で辞書を読むのか……。魔力持ちには時として別の能力を発揮する、と聞くが、それかもしれぬな」
陛下の言葉に、へぇ……と興味が湧く。魔法使いに接触してみるのもいいかもね。
「取り敢えず、そなたの言う通り、公文書類を扱える文官を招くことにしよう」
という事で陛下は使用人の一人に文官を招くよう、命じられた。
「陛下。更にお願いがございます」
一つお願いが叶ったので、ちょっと調子に乗ってみることにした。
「なんだ?」
「殿下にいくつか質問が有りますが、尋ねてみても?」
「構わぬ」
ということで第一王子殿下を見る。殿下は私をずっと睨んだままのようで私と目が合うと益々睨む。うーん、こんなに嫌われるとは思わなかったなぁ。でもまぁ政略結婚は確定だからなぁ。どうにか友好関係にはなれないかなぁ。
さておき。
「第一王子殿下にお尋ね致します。お答えにならなくても構いませんが、お答えをもらわなかった場合、医者に診てもらうことを進言します」
殿下は目を白黒させつつ、警戒心露わに嫌々頷く。
「では、一つ目。殿下から見てお父様は美しいですか? 醜いですか?」
は?
という表情を殿下だけではなく、父と陛下もしている。
私はそれを無視してお早くお答えください、と急かす。
「こ、公爵は美しい顔だ!」
ふむ。
「では、次にまいります。殿下は陛下と王妃殿下のことを美しいと思いますか?」
「あ、当たり前だ! 父上と母上は美しい!」
「そうですか。私は王妃殿下のお顔を存じておりませんからお父様と国王陛下もお美しいと思われますか?」
「我が妃は美しいな」
「王妃殿下は美しいと思うよ」
陛下も父も美しいと認めるくらいには美しい、と。
「お母様もそのように仰ってましたね。では、次」
「ちょっと待て! 母上の顔を知らないとはなにごとだ!」
私が次の質問をしようと思ったら遮られた。何事と言われても困る。
「私は普段、公爵家から出ません。本日初めて登城しましたので、国王陛下と王子殿下のお顔をこちらで初めて見ました。王妃殿下はいらっしゃらないので存じません」
淡々と事実のみ告げる。
「初めて城に来た……?」
「はい。初めてです」
それがなにか?
「公爵に連れられてこっそり城に来たとか」
「無いですね。ですから国王陛下も王子殿下も初めてお顔を拝見致しました。このようなお顔なのか、と本日知りましたね」
「今日見た者の反応ではない。他の者達は初めて見ると私のことをかっこいい、とか、美しい、とか何も言わなくても顔を赤らめてジッと見てくる者ばかりだ。今日初めて見たわけではなく、どこかで見たことがあるのだろう」
「有りません。公爵家の外に出たことは今日が初めてですので、殿下が例えば外に出て公務をされている日があったとしても私は公爵家に居るのでお見かけ出来ません。それと、全ての人が殿下のお顔に興味があると思われるのは止めてください。陛下のお顔も殿下のお顔も美しいと思うものの、私はそれだけです。私にとって、陛下と殿下のお顔は花が咲いて綺麗だと思うのと同じなのです。ただ発言を許されてもいないのに美しいとは言わなかっただけです。そしてどちらかと言えば花に見惚れても殿下の顔に見惚れるまでいかないようなので、美しいとは思っても顔を赤らめてジッと見るまではいかないようです」
淡々と私の気持ちを伝えると殿下の顔は信じられない、と言わんばかりに染め上げられていく。
信じられなくても事実です。
「ご理解頂けたでしょうか。では、最後の質問をさせて頂きます。殿下は、私の母の顔を見たことはありますか? もしございましたら、母はブサイクでしょうか」
「ある。昨日、母上の茶会に来た時に挨拶をした。公爵夫人は美しいな」
ふむ。
「分かりました。ありがとうございました」
私は頭を下げて謝意を表した。
お読み頂きまして、ありがとうございました。