さんじゅうに。
王妃殿下には四人共に側妃の資格あり、というご報告をして、それから第一王子殿下に報告するために、殿下の執務室を訪れてみました。先触れを出して返事はもらってあるので居るはずです。
「ポリーナ、君が私に用事があるなんて珍しいな」
執務室をノックした途端に殿下が顔を出したことに驚きます。側近か護衛がドアを開けるものではないのでしょうか。まぁいいです。ここで話すわけにもいかないので中に入らせてもらい、ソファーに案内されました。ローテーブルの上にお茶が用意されているのは先触れを出したから気遣いでしょうか。
側近の方が目の下に隈を作って青褪めた顔色をしているところを見ると、相当忙しいのでしょう。それも四人が四人共、ですから。向かい側に座られた殿下もよく見ると目の下に隈が出来てます。血色も良くなさそうなので、さっさと話をして退室する方が良いかもしれません。少しでも休んでもらうためにも。
「あまり顔色が良くないみたいですね。お忙しいところすみません」
「いや、いい。休憩を取るつもりだったんだ。それで話とは?」
「はい。殿下、私たちが婚姻してから十二ヶ月目を迎えました。後三ヶ月で光盛り月を迎え、婚姻して一年を迎えます」
「そうか。もうそんなに時が過ぎたんだな」
あら、私の言葉選びが間違ってますか? 一年になるから……って言っているんですけど、なんだかもう一年なんだなぁ……って感慨深く言ってますけど、いや、そうではないんです。
「はい。残念ながら私の腹に子が宿る兆しが無く。陛下との契約及び王家の慣例によって側妃選定を王妃殿下の許可を得て始めました。現在のところ候補者は四人。既に調査を終えて皆さま問題無い方ですので、一年経ったら側妃にお迎えになられても大丈夫です」
子が出来ない、と言い出したところでみるみるうちに顔色を変えて行く第一王子殿下を見ながら、私は言葉を止めることなく言い切りました。
背後で息を呑む音が四つ響きます。私の視界から見える殿下の護衛二人も目を丸くしましたが、そちらは一瞬。良いことです。動揺しては護衛の役目を果たせないことにもなりかねないですからね。
暫しの沈黙後掠れた声の殿下が口を開きました。
「側妃選定、だと」
「はい。王妃殿下にどうなさいますか、とお尋ねしました。殿下は臣籍降下をなさる身。王家の血を繋ぐのであれば、臣籍降下をなさることになられても必要かもしれない、と。王妃殿下は殿下の臣籍降下は数年掛かるから側妃選定を、と」
「母上が、そのように……?」
「はい。そこで実家へ向かい、母に打診したところ四人の女性の名を挙げられました。その四人の調査を終えて王妃殿下にご報告してあります。また、父も私とは別に調査をしており、その報告も国王陛下になさるとのこと。私は殿下へ側妃候補者のことをお伝えするべく、ここに参りました」
既にそこまで進んでいるのか……
殿下が呟かれます。忙しそうな殿下のお手を煩わせてしまうわけにはいかないので、私が進めたわけですが、ご自分でお探しされたかったのでしたら申し訳ないことをしました。
「もう、そこまで進んでいては、どうしようもないな。話は分かった。他は」
「ありません。この後は国王陛下が四人の方の調査をなさることでしょう。ちなみに王妃殿下から、候補者は最低三人。多くても十人までと伺っておりました。殿下との相性もございますが、増える可能性もあると思っていただきたいのです」
青褪めていた殿下の顔色が白く変わっていきますが……大丈夫でしょうか。お疲れでしょうから、直ぐにお暇しましょう。
「それでは、これで」
「待ってくれ。今月から三ヶ月間、また君と夜を過ごす。医師に日を聞いておいてくれ」
……つまり、子を作る、との仰せです。
「……畏まりました」
ここまで出来なかったとはいえ、これから出来ないとも言えません。そして私たちの結婚理由は、二人の間に生まれる子が魔力持ちになるだろう、という陛下の予測から成立したものです。つまり私は殿下のこの提案をお断りすることは出来ないのです。
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