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じゅうご。

 いつの間にやら結婚してから三十七日が過ぎていました。……毎日が忙しいので気づいたら一日が終わっていることが多いので日数など気にしていなかったのですが。いつもその日のスケジュールを確認するだけの事務的な会話で終わる私と殿下の朝食時が、それで終わらず。


「ポリーナ」


 珍しくその日のスケジュールを確認し終わったのに、殿下が私を呼んだので返事をすると、この後少し時間を、と言うので頷きました。

 然も改めて席を設けるというのです。そんな大仰な……とは思いますが、もしやそれだけ重要な話かと気を引き締めます。


「結婚してから三十と七日。ようやく国王陛下と王妃殿下と宰相以下との話し合いが一段落したから、その報告をしたい」


 話し合い、と聞いて。そういえば殿下は王族から臣下に下ることを婚姻式で誓いの言葉にしていたわね、と思い出した。なるほど、その話し合いに一段落がついたのか。

 そのタイミングで席が整ったことを殿下の執事が報告して来たので殿下にエスコートされながら案内についていく。……そういえば、婚姻してからよくエスコートを受けるようになったわね。どうでもいいことだけど不意にそんなことを思った。

 ……相変わらず違和感が凄くて全く慣れないけれど。

 王城の中にある王族の住居区域と政を司る政務区域の間の回廊の横の小さな庭園に丸テーブルとチェアーが準備され侍女が控えているのを見て、不意にレバーム公爵家で皆がこのように殿下を待ち続けていた日々を思い出しました。直ぐに殿下付きの執事が椅子を引こうとしたので私は止める。


「エミル」


 私付きの侍女の名を呼ぶと不服そうな顔をした執事が視界に入ったので、口元を隠しながら彼に囁くことにした。


「あなたは城の使用人として、殿下付きとしての誇りがあるのでしょう。自分を蔑ろにされた、と思ったかしら。でもね、それを言うなら我がレバーム家の使用人たちは一度も殿下のために椅子を引くことすら出来なかったのよ。……私は彼等の苦労を知っている。主人としてその苦労が報われなかったことに申し訳ないとも思ったわ。その彼等を思うと長くあなたの顔を見て来て付き合いはそれなりだけど、あなたよりもエミルを重用したいわ」


 チラリと横目で執事を見れば、微かにアッ……と声を漏らした。……こういう時に動揺するようでは城の使用人として失格じゃない? ここで表情すら動かさずに黙って頭を下げるくらいをこなせないと一流とは言えないわよ。

 でもそこから立て直して頭を下げて引き下がったのは見直すわ。

 それにしても解雇された侍従にしても、この執事にしても主人である殿下を思う気持ちは分かるけどこちらの気持ちを考えないってどうなのかしらね。

 改めてエミルに椅子を引いてもらい座る。すかさず城の侍女がお茶を淹れる。その後私たちの声が聞こえない程度に皆が下がったのを見届けてから殿下が口を開いた。


「この度の話し合いで、私の臣籍降下が確定した。時期はまだ未定だが王太子位が私に授かることも無い。故に王太子位選定が五年後ではなく半年後から始まることになった」


 随分と期間が早いわね。


「本来なら既に王太子位にどなたか着いておられないとならない……?」


「さすがだな。その通りだ。時間は有限だ。王太子位……後の国王位の座のために覚えることは山ほどある。それは妃とて同じこと。ポリーナとの契約があったから五年後から選定に入る予定だったが、私が王太子位は望まない意思が強固であること、臣籍降下の意思も全く変わらないことに、宰相以下大臣たちがようやく納得した。国王陛下と王妃殿下は諦めていたし、寧ろ私の意思を尊重する、と臣下たちに意思表明をしていたから、後は宰相たちが納得するだけだった。婚姻式にて誓約も宣言しただろう、と何度も伝えて私の意思が強固なことで皆がようやく納得した。……但し、私の王位継承権の返上は許可しても我が子に対して王位継承権復活、という条件は付けられてしまったが」


 それって殿下の我儘のツケを我が子に支払えってこと? つまりそれって私の子でもあるわけよね。えっ、嫌なんだけど。

 すかさず反論しようと口を開く私を押し留めるように殿下が右手を挙げるので仕方なく口を噤む。


「その条件に更に条件を付けた。私の我儘を我が子に支払わせるわけにはいかない。王族教育はさせるが、我が子が十歳に至った時に我が子に選ばせることとした」


 それでも嫌なものは嫌だけど、妥協点と言われてしまえば仕方ない。私の子ではあるけれど殿下の子でもあるから。……尤も懐妊すらしていないのだから先の話。それも男児を三人は産むように言われているから臣籍降下の時期が不明でも、三人は産まなくてはならないし。

 あの行為をまたしなくてはならないことが憂鬱だけど王命なのだから、諦めるしかない。

 ……せめてまだ見ぬ我が子を愛せますように。殿下のように触れると違和感を感じてしまうような、そんなことにはなりませんように。

 実は婚姻式を終えた初夜の翌日から日々願っていることだった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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