悪役令嬢に転生したのでヒロインを殺すことにしました
私は悪役令嬢に転生してしまったらしい。
前世の乙女ゲームの記憶を思い出したのは、そのゲームのヒロインと初めて会った時だった。
ヒロインの名前はロリアーナ。貴族の生まれではないのに、稀有で強力な光魔法を9歳で発現させてから国を大きく騒がせた少女だった。彼女は貴族のみが通うことを許される王立学園でより光魔法の才覚を伸ばすために後ろ盾にもなってくれる有力な家に養女として住むことになった。
その家こそ、悪役令嬢コードグルース・エリザベートの家だった。
ゲームのあらすじはこうだ。
10歳で貴族の養子となったロリアーナだったが、実子であるエリザベートに彼女の親たちにはばれないようにいじめられる。もともと庶民のロリアーナには強く言い返すことも、自分を引き取ってくれている彼女の親にいいつけることもできず16歳で王立学園に入学するまでそれは続いた。
しかし王立学園では様々な魅力的なキャラクターと出会い、親交を深めることでロリアーナの心の傷も徐々に治っていき、クライマックスではエリザベートの悪事を彼らとともに公の場に発表し彼女を国外追放とした。
そのあと物語はロリアーナと魅力的なキャラクターとのラブストーリがエンディングに近づいていき、彼女が誰かと結ばれたところでゲームは最後を迎える。
王道だ。
しかしだからこそ大衆に愛されるのであり、かくいうこのゲームも繊細な絵柄とラブストーリーだけでない攻略要素に多くの人が時間を費やした。とくに好評を博したのが、断罪された後のエリザベートの行方である。
彼女はエリザベートの温情から処刑を免れ国外追放の身となるが国を出る前に、エリザベートの力によって救われ熱狂的なファンが多く生まれてしまった村でむごい方法で殺される。
髪をむしり、爪をはがれ、腕を折られ目をえぐられ、、、。その様子をシルエットでぼかしながらも細かくつづられたシーンは必要か?とユーザーの間に物議をかもしたが、エリザベートがロリアーナをいじめる様子もまたむごいもので細かいものだったため「因果応報」という言葉で終着し、今ではざまあが新鮮だと好評だった。
「ふうん。」
そのエリザベートに転生した私。
でも、自分でも驚くほどに動揺することはなかった。
なぜなら、私はエリザベートの人生が二回目だからである。
一度目は前世の記憶を思い出すことはなかった。
今思い出しても驚くほどにゲームのシナリオと全く同じように行動し、全く同じように殺された。
私は庶民の彼女と、尊い血筋であり有力な公爵家の一人娘として優遇されてきた私が同じ屋敷で暮らすなんてありえないと思っていたし、両親もただ偶然光の魔力を手に入れただけの女を実の子である私と同じように扱うなんて信じられないと思っていた。
だから、公爵家の温情にあずかる身としてあの程度のからかいを気に病むなんて、ただの弱いアピールをして男にこびへつらっているだけの女だと思った。最後の瞬間まで。
今思えばほんとうにモラルに反する考えだったと思うし、私が間違っていると思う。
だから、今後は断罪されないように、目立たないように、余計な気を起こさないように、、、。
と考えたところではたと我にかえる。
「それだけで、本当に大丈夫なのかしら?」
ゲームの強制力というのは有名な話だ。
私が前世呼んでいたラノベでも、主人公がどんなに行動を改めようとゲームの本来のシナリオ通りに物事が移り変わることがある。
その先に待っているものが国外追放ならまだしも、私は死ぬのだ。
村人の狂ったような目にさらされて屈辱的で無念の死を遂げる私にとって、それは何よりも恐れるべきものだった。
「じゃあ、何が安全なの?
絶対に私が殺されない方法は何なの?」
◇◆◇◆◇◆◇
迷った挙句、私は彼女を殺すことにした。
でもただ殺すだけではいけない、ロリアーナは既に光の魔力を発現させてしまっていて、王家にもそれは認知されている。だからこそわが公爵家に養子に入ることになったわけで、私が記憶を取り戻すのがロリアーナに出会ったときである時点で何の理由もなく彼女を殺すのは罪になる。
もちろん、と言っていいのかはわからないが、私は公爵家の一人娘なのだからいろいろなところに権力が回り、国外追放なんて目には合わないかもしれない。両親ならもみ消そうとしてくれるかもしれない。
だが、それではつまらない。
王家に怪しまれる、両親に迷惑をかける、万が一にも人殺しとささやかれるようになってしまって私の完璧な人生に影を差すことになってしまってはいけない。
それに、
せっかくの光の魔力、ゲームのシナリオ、そこを利用せずにただ殺すなんてことは愚者のすることだ。
私は綿密にロリアーナ殺人計画を練ることにした。
まず第一に、ロリアーナに親切にした。
彼女をいじめて不安材料を作るなんてメリットがないし、私は前世一般階級の人間でどちらかといえば両親よりもロリアーナの感覚のほうが理解できた。
つぎに、ロリアーナとの思い出をたくさん作った。
公爵家の令嬢にふさわしくないといわれようが、あきれられた目で見られようが、人の目を気にせずにロリアーナと遊びまわった。私は光の魔力は持っていないけれど、水、火、土、風の四つの魔力の適性を持っておりどれも数値が高かったから、それらも使って遊んだ。
時にはロリアーナと一緒に屋根より高く、時にはロリアーナと一緒に水の中へ、けがしたときは光の魔力の持つ治癒力によってあっというまに元気になった。
そして、ロリアーナを批判する目を許さなかった。
集団が自分を批判し、責め立て、嘲笑することの辛さは私がだれよりも分かっているはずだった。
私はどちらの立場にも立ったことがあったから。
だから彼らの考えを読み先回りすることはたやすいことのように思えたし、それをロリアーナに悟らせないように解決することもだんだん得意になっていった。
この三つは、ロリアーナと仲良くするためにやったことでは決してない。
ロリアーナに親切にするのは、いざというときの同情を誘うためだしロリアーナとの思い出をたくさん作っておくのは、いざというときに温情をかけてもらうためだった。そしてロリアーナを守るのは、ロリアーナを陥れようとする者たちに私が利用されないようにするためだった。私が何もしていなくても、彼らが何かしらの働きをしたらこの世界では簡単に犯人に仕立て上げられてしまう。
そう、だから私にロリアーナへの愛情など、かけらも芽生えていない。
◇◆◇◆◇◆◇
私のたてた殺人計画はこうだ。
わが公爵家の持つ財は国内でも頭一つとびぬけている。
それは先々代の当主が、凶作でききんに陥ったときに他領を思いやらない強引な方法で自領での食料を確保し、領民からとる税を減らさなかったことにある。
しかしその遺恨は当時から100年近くたった今でも残っていて、特にその時に落ちぶれてしまった貴族からの恨みは大きい。それを利用する。
私は現在一人娘のため、私が死んでしまえば正統な血を引く跡継ぎはいなくなる。
恨みを持っている者たちにとっては、自分たちの境遇を作った者の血が絶えるのだから復讐は達成されたととらえることができるだろう。
私を、殺しさえすれば。
きっと、誰にでも平等にやさしいロリアーナはいままで世話になった家の子供が殺されると聞いたら自分の身をなげうってでも助けてくれるはずだ。
いや、絶対に彼女はそうする。
例えば、私が油断しているときに剣を持った男が近づいてきたらとっさにかばってくれる人なのだ。
私はその状況を作るだけでいい。
それだけで「光の魔力を持つ少女は、養子に入った公爵令嬢を守るために自らの命をささげた」という美談になる。私は数年彼女のために祈ってさえいれば株も上がるし私を怪しむものなんていなくなるだろう。
舞台に選んだのは、私が悪事を公開される卒業パーティーだった。
ここでロリアーナが死ぬことで私の計画は美しいフィナーレを迎える。
私は剣に驚き声を上げるだけでいい、それだけで、私が死ぬ可能性はほぼなくなる。
王立学園の「魅力的なキャラクター」たちも本人が私をかばって死んだとなれば、仮にいじめた証拠が出てきたとしても公開する可能性は少ないだろう。
私はこの後、結婚し、家庭を持ち、、、死ぬ。
「あれ?」
「?どうしましたエリザ??おいしいものでも見つかりましたか?」
「、、私、何が目標なんだっけ、、。」
「、、、はい?」
「私、、、死なない先に何を希望にすればいいの?あなたがいない世界で、、。」
「エリザ?落ち着いて、、。エリザ?」
貴族の男と政略結婚をして、愛のない暮らしをして、子どもを産んで、その人生に私が喜べる要素があるの?このこがいないのに、私は今がこんなにも楽しいのに?
ただ息をするだけで過ごすなら、最後にとびきりファンタスティックな痛みを味わって死ぬほうがよほど有意義なんじゃない?
「顔色が真っ青です!だれか!エリザベートを休憩室に連れて行って!」
「大丈夫、大丈夫よロリアーナ、、。ちょっと立ち眩みがしただけだから」
「エリザはいつも無理をするから心配なんです。
大丈夫でも休んでいたほうがいいわ、ただでさえ最近遅くまで起きているでしょう?」
あれ、今何時?
刺客が襲ってくるのって、何時?
扉の陰から帽子を深くかぶった男が背を低くして現れる。
ロリアは私のほうを向いていて、男に気づいていない。
だんだんと男が歩みを早める。
手には銀色に輝くものがある。
私の足は凍り付いたように動かない。
衛兵が男に気づいてこっちに向かってくる。
その間にも男はさらに歩みを早め、走ったようになる。
近くにいる人は、誰も男に気づかない。
刃物がこちらに向けられる。
殺される。
ロリアが振り向かないように、決して私なんかをかばったりしないように顔を私に向けたまま固定させる。ああ、私は、なんで気付かなかったのかしら。
熱い。
腹部から赤い液体が飛び出て、視界が血に染まった。つんざくような悲鳴の中、私の血を確認した男はにやりと笑って逃げようとしたところを衛兵に取り押さえられている。
足がもつれ、みっともないと思いつつも体が傾くままに地面に倒れこむが、その衝撃でさらに刺された腹部が痛む。苦しい。ドレスが血に染まっていくのも、銀色の刃物が突き立てられている光景がとても自分の身に怒っていることとは思えない。
「エリザッ!エリザベート!!!」
ロリアの泣き叫ぶ声が聞こえる。
泣かないでロリア
泣かないで。
結局、ゲームの強制力というのは私があがこうが関係ないらしい。
それでも、
それでもいいと思ってしまうのは私が光の魔力に当てられたからか
もしくは、ロリアの人柄がそうさせたのか
「幸せになりなさい、ロリアーナ」
そのまま目を閉じた。
「おはようございますエリザ。目が覚めたんですね」
「、、、、、?」
「このまま目を覚まさなかったらもうこの世界ごと滅ぼしてしまおうかと思ったところです。
よかったあ起きてくださって。
あのときは本当に心臓が止まるかと思いました。
あっ、あの男は私と公爵家が使い得るすべての力をもってして懲らしめておきましたから!
それに加えて、今後の対策はばっちりです!多少の行動制限はありますがすべてはエリザの身の安全のためです、私はずーっとそばにいますからエリザも幸せですよね!」
「まってまって脳が追い付かない」
「今後のためにエリザにも考えてもらいたいこともありますが、とりあえずは体力を元に戻すことが第一です。幸い、後遺症も大きな傷も残っていないのでお医者様は全治1か月とおっしゃっていましたよ」
「ぜんちいっかげつ?」
「致命傷だったのですが、私がそばにいたのがよかったです。あっ、自慢しているわけではありません!すべては神のご加護と私のエリザへの愛の力がなした業ですから」
「愛の力」
私はどこで間違えたのかしら
殺すはずだったヒロインに溺愛されてしまった




