修道戦士5人衆
俺はアプルの依頼を聞いてから、しばらく小屋の整理を後回しにした。
残念だが、お引越しは先送りっつうことだ。
今回の依頼の全容はまだよくわからない。
とりあえず今の段階で、アプルから聞いた話はこうだ。
アプルはここから南西にある、すこし大きめの都市の教会で働いているそうだ。最近その都市の周囲に不審者が現れるらしい。
不審者といっても、はだかを見せてくる変態野郎とかいうわけじゃないぞ。
そいつは見上げるほどの巨大な黒い馬に乗った、真っ黒の鎧に身を包んだ騎士だそうだ。
見た人の話では、そいつには手足が無いという。手足が無くてどうやって馬に乗るんだという話だが。
奇妙なことに、そいつは黒い馬の上におちることも無くちょこんと乗っているらしい。
そして、真っ赤に裂けた口に大きな鎌をくわえているそうだ。その鎌でアプルのいる教会の司祭や修道士などの聖職者たちを切りつけて襲うらしい。
その鎌に切りつけられた者は、背中や胸にひどい凍傷を負い、その後ひどい熱病に侵されるそうだ。中には命を落とした者もいるらしい。
その為、都市中に”黒騎士の呪いにより聖職者が粛清されている”という噂が広まっているそうだ。
祟りだなんだと騒動がさらに拡大しそうな勢いという事だ。
まぁ、話を聞いただけで、普通の人間が相手ではないと予測はつくが。
ただ、今の段階では、それが呪いかどうかもよくわからんな。
7日後に、アプルがジャワ村まで迎えに来てくれるという約束だ。それまではゆっくりするとしよう。
出発当日の朝。
俺は呪具や書籍の入ったでっかい荷袋を背中に担ぎ、ジャワ村のはずれでぼんやりと待っていた。
お迎えっていうと箱馬車かなにかで来てくれるんだろうか。
美人の修道女とふたりっきりの馬車旅なんて、なかなかおつなもんだな♪
あ、ちがう。俺は胸ポケットにいるキャンディに目をやる。今はどうやら眠っているようだ。
ずっと寝ててほしい、今日一日くらいは。睡眠術でもかけてやろうか。
それにしても、アプルがキャンディの事を知っているとは。孤児院で見たとか何とか言っていたかな。
キャンデイのやつ、俺のところに来る前は孤児院にいた子供の持ち物だったんだろうか。
俺が考えにふけっていると空気が揺れるような感覚がした。
俺はふっと目を向ける。視線を向けた道の先からなんだか物々しい集団が大馬に乗りこちらに向かって来るのが見えた。
大地をひづめで蹴り上げる音を響かせてどんどん近づいてくる。
なんだよありゃ。どこの騎士だ。
良く見ると、その集団は、白いブラウスの上に真っ黒のスータン(たて襟の司祭服)をビシッと羽織った5人衆だ。
皆背中に大きな槍を背負っている。
あれは騎士じゃない。修道戦士だ。修道士の中でもとくに腕っぷしの強い連中。
おもに教会や大聖堂の警備、要人の護衛、非常時の戦闘要員となる屈強な修道士たちだ。
そいつらは俺の前に颯爽と現れた。集団の後ろを見ると人の乗っていない大馬を一頭引き連れている。
俺は先頭にいる男をぽかんと見上げた。あ、イヤな予感。
色白の男は大馬から降りると、わざとらしく片膝をついて挨拶をしてきた。
俺も思わず、頭を下げる。
男はさらっさらな金髪をなびかせて立ち上がると名乗った。
「私は教会から遣わされた修道戦士のキーマンと申します。あなたがウル殿ですか」
「え? そうだが」
「ではウル殿。こちらの大馬にお乗りください、我々が警護します」
キーマンはあいている大馬に手をかざした。
ああ、やっぱり。嫌な予感が的中した。おっさんのささやかな夢がいま打ち砕かれた。
美人の修道女とのぶらり二人旅というささやかな幸せの瞬間が、ぶっ飛んじまったのだ。
アーメン。