修道女アプル
紺の修道服に身を包んだ美女はアプルと名乗った。
ここから南西、王都に続く街道沿いの町からきたらしい。
遠路はるばるご苦労なこって。俺のうわさを聞きつけてたずねて来たらしいが。
俺がアプルと話をしているとベルアミが戻ってきた。
俺は右斜め後ろに気配を感じ、すっと見上げる。ベルアミのしたなめの顔。たっけー鼻。下から見ると、ただでさえ高いベルアミの鼻はさらに尖ってみえる。
ベルアミは不思議そうな顔で、俺の隣の椅子の背もたれをつかんで後ろにひく。すっと腰かけた。
座ったベルアミが俺とアプルの顔を交互に眺めていった。
「あれ、ウルの旦那きてたんですかい。もう話はついたんで?」
「ま、大体の依頼内容は聞いたよ」
「で、引き受けるんですよね?」
「まぁ、そうだな。ところでベルアミ。お前さんに聞きたいことがあるんだが……」
「へぇ、なんですかい」
「いつもこんな感じで客引きしてるの?」
ベルアミは目を丸くして慌てたように手を顔の前でぶんぶんとふった。
「いやぁ、そういうわけじゃないんですぜ。この村にはウルってぇ名前の人物があと二人いましてね。ウルの旦那と間違えてそいつらのところに良くたずね人が来るらしくて、そいつらから話をうけとるんでさ」
「ああ、そういうわけか……てか迷惑かけてたの俺のほうなのか……」
「おれは、手紙や荷物の運び屋なんで。このあたりの住人の家は全部把握済みでして。どうしても俺のところにそういう話が集まってくるんでさぁ」
「でもさぁ、その解呪師って呼び方、なんなの?」
「さぁ、俺が言い出したわけじゃねえですぜ。なんだかウルの旦那には、そういう通り名がついているらしいですぜ」
ディスペラー・ウル。なんて響きよ、これ。どこぞの手品師じゃねーんだから。
その時、キャンディが胸ポケットからぽこんと顔を出してわりこむ。
「ベルアミ、いつもお客さん連れてきてくれて、ありがとっ!」
ベルアミは頭をかきながら、とんでもねーです、とかなんとか返事をした。
うーん。俺の言いたい事とは微妙に違うけど、もういいんです。今回は許す。ええ許しますとも。
こんなかわいこちゃんが来たら、がぜんやる気が出ますから。
俺が目の前のアプルを見ると、目玉を大きくひん剥いている。ど、どうしたんだ。かわいこちゃん。
するとアプルが小さくつぶやいた。
「そ、そ……そのしゃべるぬいぐるみ、もしかして、うちの教会にあった黒ウサギ?」
「え?」
俺は胸ポケットのキャンディに目をやる。キャンディは首をかしげている。
まぁ、コイツは忘却術か何かをかけられているみたいだから、以前の事は覚えていないはずだ。
俺はアプルに向き直りたずねる。
「お前さん、こいつを知ってるのか?」
「ええ、もしわたしがしっている物と同じぬいぐるみなら、うちの教区の孤児院にあったものかもしれないです」
「キャンデイ、おめー覚えて……ねーよなぁ……」
アプルは目を丸くしてキャンディをじぃっと見ている。
ま、その話はまた今度だ。
とりあえずアプルの住んでいるという町に行くとするか。ついでに、キャンディの事も何かわかるかもしれねぇし。
ひとまず準備。
俺は一旦アプルには帰ってもらい、またいつものように2、3日かけて持ち物なんかの準備をする猶予をもらった。
どうやらアプルは依頼主の使いで来たらしい。報酬やらの細かい話はその依頼主に直接会ってから、だな。