ありがとうってか(第三章 最終話)
しかし、俺とバラガムが部屋に戻ると、二つのベッドはすでにからっぽだった。
ま、またか。
俺は肩を落としていった。
「はぁ……あいつ、いつもいなくなるよなぁ……キャンディ、あいつら大丈夫そうだったか?」
ベッド横の小さなテーブルに座っていたキャンデイが飛び跳ねる。
「まあね、ちょっと心配だったけど。ふたりとも目を覚まして、こっそり行っちゃった」
「そうか。で、ここが重要だ。ディンブランの呪いはとけたのか?」
「ええ、ディンブランがルルイアの手を握った途端に、彼のまぶたの傷は消えて、彼はゆっくり目を開いた」
「……ま、それならよかった」
「とってもきれいだったわよ! 目を開いたディンブラン。あの町で見た肖像画よりも、もっとね」
「へー、そーですかー、それはーよかーたー。みれていーなー」
「それでね、ウルとバラガムに伝えてほしいって」
「ん?」
「本当に、ありがとう、って。何度も逃げてもうしわけないけどってさ。ぷぷぷっ」
「ほんとだぜ! いつも助けようとしたらいなくなるんだからよぉ……なんかこう、スッキリしねぇわ」
バラガムがつかつかと窓際に歩み寄り、遠くを見ながら小さくつぶやいた。
「でも、二人で一体どこへ行くんでしょう。ラトヴィア城にもネイルンバシアの砦町にも戻れないというのに……」
その言葉にキャンディが返事をする。
「ね、アンタ、世界って広いのよ。どこへでも行けるじゃない」
「……どこへでもって言ったって、あんな傷ついた状態でどこにいこうっていうんです」
「アンタ、まさか二人をほうっておくつもり? 将来の宮廷魔術騎士団でしょ?」
「え? それはそうですけど」
「困ってる人を助けるんでしょ」
「わ、わかりましたよ。あとで彼らを追いかけます。でも、ワタシは宮廷魔術騎士団員になることだけを考えていましたけど……なんというか、もっと自由な生き方があるのかもしれません」
「そうよ! アタシみたいにぬいぐるみとして生きるのもいいかもね」
「お! それもそうですね」
バラガムはキャンディを見てニコッと笑った。どこかまだ少年が残ったままの笑顔。
そうさ、どこへでも行けるんだ。誰でも、どこへでも行く権利がある。
少しの勇気がいるけれど、誰かと一緒に歩き出せば、きっと怖さも薄らいでいくもんさ。
ディンブラン、ルルイア、どうか元気でな。ま、心配だから、ちょっとは見送るよ。
そしてまたいつかどこかの町で会えたら、そん時は俺から逃げんじゃねーぞ。こらぁ。
さて、今回の仕事の依頼主であるエリヤナにはどう報告すっべかな。
さっきちょびひげ騎士から頂いた金貨100枚でも報酬としては十分ではある、な。
俺は窓の外をみながらふざけ合っているバラガムとキャンディの背中に目をやった。
バラガムには、とびきり高級な肉でもおごってやるか。
第三章 のろいがしと孤独な女剣士編 完