ちょびひげの騎士
俺は早足に部屋をでて、廊下を急ぐ。受付をとおりすぎて表に出た。
外は青空。朝の澄んだ空気で満たされていた。俺は宿の門の前まで出向いた。大馬に乗った騎士を横目に表の通りまでたどり着く。
表通りには大馬に乗った騎士が数名、秩序をもってならんでいる。
俺は馬に乗った軽装の騎士にきいてみた。
「えらく物々しいがなにかあったんですかい?」
鼻をつんととがらせたちょびひげの騎士は馬上からこちらをじろりと見おろす。
なんだ貴様は、という顔で俺の全身を上から下まで睨みつけた。
なんでぇ、無礼なやっちゃな。
その時、バラガムの声が聞こえた。
「ウ、ウル殿、お逃げください!」
「へ?」
俺が声のほうに目をやると、バラガムが二人の騎士に後ろに手を縛られて地にひざまずいていた。
え、なんだこりゃ。こいつらって俺たちが目的なのか。
俺はもう一度真横の騎士を見上げた。騎士は目を見開いていた。こちにぐっと圧をかけ口を開いた。
「貴様が件の紋章師か」
「は、ははは……そ、そうみたい……だなっ!」
俺は一気に地を蹴って通りを走りかけた。が、動意づいた大馬に乗った騎士たちにあっという間に追いつかれた。
いっぺんに四方をかこまれる。でっかい大馬に乗った騎士たちにすべての退路を断たれた。
俺の目の前のちょびひげの騎士が口を開いた。
「ディンブラン様はこの宿の中か?」
「だとしたらどうだってんだ」
「連れ帰る」
「あいつはいま気を失っている、そっとしておいてやれ」
「そういうわけにもいかん。彼はオネンアス族の武闘派集団”ネイブルバの使徒たち”と内通した疑いをかけられている」
「はぁ? なにいってんだ!? そんなわけねーだろ!」
「いやぁ、感謝する。良くディンブラン様を探し出してくれた。礼を言うぞ、紋章師。貴様に褒美をとらせる」
そういうとちょびひげの騎士は後ろにちらりと目くばせをした。
後ろから歩み寄ってきた騎士が俺の胸に荷袋をポンと投げてよこした。
俺は反射的に両手でその荷袋を抱える。抱えた瞬間、中からジャラリと硬貨の音がした。ずっしりとなかなかの重さ。
で、なんだこれは。ふざけんじゃねえぞ。俺はちょびひげの騎士を睨んだ。
「おい、なんだこのカネは」
「ディンブラン様を探してくれた礼だ。それを受け取ってさっさと去るがいい。今まで見聞きしたことは誰にも言わないように、口止め料も含めて金貨100枚だ、悪い金額ではあるまい」
「おい、俺を乞食か何かだとおもってんのか、てめーは」
「にたようなものであろう、そのカネで女でも抱いてくれば、昨夜の事も忘れさせてくれるだろう」
「どこまで人を馬鹿にすればきがすむんだ、この野郎……」
「ふん。切り殺されないだけでもありがたいと思え」
俺は宿のベッドで眠るディンブランを思った。
なぁディンブラン、まだ眠っているのか。ラトヴィア家なんて捨てちまえ。ルルイアと一緒に絵描きにでもなって好きに生きろ。
俺はお前さんを応援する。たとえどこかでのたれ死ぬことになったって、いいじゃねーか。
こんな奴らのいる城に、帰る必要なんてねぇんだから。