呪具『乙女殺しの指輪』
この洞窟に並んでいるのは、どれもこれも年代物、かついわくつきの呪いの道具。
身に着けると、様々な症状が現れてしまうような危険な代物だ。
中には命を奪うものだってある。
しかし、俺には装備できてしまう。
俺には呪い全般に対する”呪いの耐性”がある。
つまりそれは、同時に”呪具耐性”も備わっているともいえる。
普通は呪われた道具や武具などを身に着けると、何らかの呪いの効果が発生すると同時に、その反作用ともいうべき”よくない症状”も伴う。
しかし、俺はその”よくない症状”をかなりの確率で抑えることができるのだ。
もちろん、ここに至るまでにはそれなりに鍛錬はしたが。
例えば、今回リゼから依頼のあった赤い宝石の指輪の呪い。
あの指輪をはめて剣と握ると、瞬間的に飛び抜けた殺傷能力や身体能力を手にする効果があるようだ。
それと同時に体力と精神力の激しい消耗が起こる。
呪いが発動したあとリゼはひどく衰弱してしまっていた。
あの時は発動が数秒だったからまだよかったものの、あの状態が数分も続けばおそらく彼女は生命の危機を迎えるだろう。
周囲にいる女を殺戮したあと自分自身も死に至る可能性のある呪いなのだ。
しかし、俺があの指輪をはめた場合は呪いの効果は享受できる。
そして、その反作用はほぼ受けない。
つまり驚異的な殺傷能力をもって、女を狙って延々と殺しまくるおっさんの誕生というわけだ。この能力の使い方を間違えればどうなってしまうのか、想像に難くないだろう。
俺はゆっくりと洞窟内の呪具たちを見渡す。
ここで眠る俺の呪具たちにはそれぞれに特徴に合わせた名前を付けている。そういえば。
「あの指輪にも名前をつけてやらなきゃなぁ……」
「名前?」
「そ、名前さ。呪具にはそれぞれ通り名があるもんさ。あの指輪はそうだな……女の命を狙う指輪だから……こういう名前はどうだ、乙女殺しの指輪」
「きゃっ、なんだかこわい名前ね。アタシ、そんな指輪はめたくないわ」
「はめたくないと思わせるのが狙いなんだから大成功じゃねぇか。危険な呪具には、怖い名前を付ける方がいいんだよ」
俺はキャンディと話しながら、いくつかの呪具をみつくろい、持ってきた麻袋に詰め込んだ。そろそろ引き上げようかと思った時、ふと、壁に立てかけている大剣が目に入った。
俺はゆっくりとそばに歩み寄りしゃがむ。
銀色に煌めく幅広の刃の根元に刻まれている『呪印』を見つめる。
爪痕のような三本の縦線を指でなぞる。
呪印というのは、この剣に呪いをかけた呪いの紋章師の刻印だ。
呪いの紋章師はそれぞれに独自の呪印をもっている。
そして特に強力な呪いを対象物に付与する際には自分の呪印を残す。
自分の呪印を刻むことでその呪いをより強化することができる。
呪印というのはそれだけ強い力を持っているのだ。
俺はあちこちに転がるいくつかの呪具を物色する。
今のところ討伐相手の正体は、皆目見当がつかない。
組織なのか個人なのか。人なのか魔物なのか。
相当な術者なのか、しろうとに毛が生えた程度の人物なのか。
いずれにしろ、久々の長旅になりそうだ。
俺は立ち上がると、燭台の灯を消して洞窟を後にした。
あとは数日後、待ち合わせ場所に行くだけだ。