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蟲毒とはね★


俺はらせん階段の出口から少し顔を出して、すっと視線を上げる。


高い壁が上まで続いている。そこまでいくと松明の光も届かず闇に吸い込まれている。


おそらくこの祭壇は町の広場の真下に作られている。


視線をまっすぐに戻した先。一番奥にひときわ高い台座があり、そのうえに何かが祭られている。


俺は目を凝らす。おもわず、言葉がこぼれる。




「あれは……かたな……か?」




俺の呪具アンテナがマックスビンビンに伸びる。間違いねぇ、あれは呪具だ。刀の呪具。


うひょ~い! あいつを必ず手に入れてやる。


俺は、どうにもこうにもはやる心をおさえつつ、前のめりになりながら、周囲をよく見渡す。


刀を祭っている台座を前に十数人の人影がひれ伏し、何度も体を折りたたんだり、もちあげたりして祈りを捧げている。


あの刀に祈りを捧げているようだ。


台座の両端には太鼓をうちならす2人の人物。黒いマントのついた祭服に身を包んでいる。


こいつらが”ネイブルバの使徒たち”のメンバーか。ただ、ここにいるのは、せいぜい14、5人。さほど大勢ともいえないが。


俺は背中にひっさげている自分の荷袋に手をやる。荷袋の中には相手の動きを縛り付ける呪具”じゅばくの黒髪”がある。そして松木で作ったヒトガタが7つ。


これだけで、なんとかなるか微妙なところだが、あとはバラガムの爆発力に賭けるしかない。





俺は息をひそめて様子をうかがう。



挿絵(By みてみん)



そいつらの中央にはおおきな井戸がある。なぜあんなところにあれほど大きな井戸があるんだ。


井戸のすぐよこ。横たわっている人影がいる。まちがいなくあれがディンブラン。


俺がじっと見つめていると、足もとから声がした。






「ウル殿、これはいったい……」





足元にはしゃがみこんだバラガムがいた。出口から少し顔を出して祭壇をのぞきこんでいた。この異様な光景を前に、息をのんでいる。


俺は小声で話す。



「たぶん、何かの術式だ。おそらくこの術式の完成にディンブランが必要なのだろう」


「は、早く助けなくては」


「まて。もう少しだ。こいつらが何をしようとしてるのか見届けなくては。ルルイアもどこかにいるはずだが、まだ確認できん」


「ええ……そんな……はやくしないと、どうもただならぬ雰囲気です」


「わ~ってるよ。とにかく落ち着け」




バラガムの手はすでに背中の槍斧(ハルバード)に伸びている。


俺だってすぐに行動に移したいが、ルルイアの姿が見えんのだ。ルルイアの無事を確認しなくては。


どこだ、どこにいる。


その時、奴らの中の一人がすっと立ち上がり奥の台座へゆっくりと進む。


台座から両の手で刀をありがたそうに持ちあげると、ゆっくりと井戸の前に進む。


そいつは井戸の前で刀を頭の上に掲げた。そして刀を井戸の中に投げ入れる。




「……なんだ?」




すると、次に数名が立ち上がりディンブランを取り囲む。ディンブランの体を数人がかりで持ち上げると上に掲げる。



どういうことだ、井戸の中に刀を入れて、次にディンブランを井戸の中に放り込むつもりか。


だとすると、ルルイアはすでに井戸の中なのか。


その光景に、俺の思考がひとつの呪いに突き当たった。




蟲毒(こどく)』だ。




間違いない。こいつらはこの井戸の中でディンブランとルルイアにあの刀を使っての殺し合いをさせるつもりだ。そこで生まれる強烈な怨嗟を呪具である刀に移し、その力を増幅させる気だ。


クソみたいな連中め。愛し合うもの同士に殺し合いをさせようとは。


俺はついに、バラガムに伝えた。




「バラガム、奴らをぶちのめしてやろう」


「はい。命まではとりませんが」




バラガムは、そうと言うと、まとっていたローブを胸から一気に脱ぎ払い槍斧(ハルバード)をぶん回して駆け出した。


俺は荷袋から本当は使いたくなかった、黒髪の束をぬきだす。ああああきもちわりぃけど仕方がない。


俺は長い黒髪を左手ににぎり、奴らと相対した。


奴らは突如現れた俺たちをみて一瞬固まったあとすぐにこちらに向かって来た。


俺は右の指で印を結ぶ。





スキル『呪具耐性』の発動だ。


俺は呪具拝借(じゅぐはいしゃく)呪詞(のりと)を唱えた。




―――――――――



天地万物(てんちばんぶつ) 空海側転(くうかいそってん) 


天則(てんそく)()りて 我汝(われなんじ)(おきて)(したがう)


御身(おみ)(けつ)をやとひて (ゆる)したまえ




―――――――――





呪具:じゅばくの黒髪 鬼女族タタラカの横恋慕の呪いがこもった数メートルの黒い髪



効果:標的の動きを止める、そのさきさらに縛りつづけると気絶、最終的には窒息死に至らしめる




俺の左手の黒髪がうねうねと動き出し、ばああっと一気に周囲に広がった。




「ひょええええ!」




俺は黒髪を必死に握りながら、標的に狙いを定め印を飛ばした。


ますは、ディンブランを抱えている奴ら。


黒髪は一気に直進し、ディンブランを井戸の中に放り投げようとしている奴らの手足に、首に絡みついた。


奴らは固まり、体を震わせながら気絶し、ゆっくりと地に崩れていく。やつらに抱えられていたディンブランは床にどさりとおちた。


他の奴らはバラガムが槍斧(ハルバード)の平面でつぎつぎと顎をうちのめし、一瞬で気絶させていく。


お、さすが。こりゃ楽勝かも。



残るは台座横にいる司祭二人。



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