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地下祭壇



どれくらい階段を下りたのか、月明かりは遥か彼方。もはや視界はゼロだ。


目の前は、隙間なく真っ黒に塗りこめられている。試しに目を閉じてみるが全く一緒だ。


すこし感覚がマヒしてきて、なんとなく足がおぼつかない。微かに手に触れる壁の感触だけがたよりだ。


俺は小さく話す。



「……バラガム、いるか」


「はあぁぁぁ、暗すぎて目まいがします。こんな時、火の紋章師でもいれば、即席の松明を作ってくれるんですが……」




火の紋章師ねぇ。俺は頭の隅に兄であるアッサムの顔が浮かんだ。たしかアッサムは剣と火の紋章師だったか。


俺は暗闇の怖さを紛らわせるため、バラガムに話しかける。




「お前さんは、まだ宮廷魔術騎士団の見習いだろ?」


「え? はい。来年に入団試験に受かれば正式に叙任(じょにん)(役を授かるよう命令)されますが、正直かなり狭き門です」


「へぇ、そうなのか。今は、アッサ……ああ、その~……あの副隊長が率いる部隊にいるのか?」


「はい、今は「グリフィン隊」というところに配属されています。でも、じき異動しますけどね」


「違う部隊にもいくのか」




俺はくびをかしげる。バラガムは素直に答えてくる。




「ええ、もちろん。見習いの内はいくつかの部隊をたらい回しですよ。どこに行っても雑用ばかりです。炊事、洗濯、荷物持ち、一体何のために入ったのやら」


「大変だな。宮廷魔術騎士団見習いっていや、エリートコースまっしぐらだと思っていたが」


「ワタシもです。ですからね、ワタシは今、正直とてもワクワクしているのです」


「へ?」


「あ、すみません、ワクワクというのは不謹慎でしたね」


「いやぁ、正直でいいんじゃねーの?」


「ですかね……こうして実際の紋章師の方と任務を遂行するだなんて初めてなんです」


「紋章師つったって、俺は別に国の騎士や魔術師でもなんでもないぞ」


「そんなことは関係ありません。こまっている人を助けて、ならず者をぶちのめす。それが宮廷魔術騎士団のモットーです」


「それ、ほんとかよ? お前さんっておもったより……」




その時、足元から何かの音が響いてきた。


俺たちはびくりと立ち止まる。


地鳴りのような太鼓のおと。それと同調するように重なり合うひくい声。





「バラガム、聞こえるか」


「ええ、太鼓と……なにか合唱しているような声が聞こえます」


「いそごう」




俺たちは会話をとめて、足を速めた。






地響きは徐々に、徐々に大きくなる。耳が痛い。


そして、ついに向かう先のどこからか明かりが漏れてきた。


俺たちは慎重にらせん階段を下りていく。うっすらと足元の階段が浮かび上がる。


地響きのような太鼓のうねりは、間違いなくこの壁の向こうからはっきりと聞こえる。


まるで巨大な竜の鼓動のようにリズミカルに打ち鳴らされる太鼓。


それに合わせて心臓に直接語りかけてくるような、叫びに心をもっていかれそうになる。


こりゃ、何かの儀式だな。しかもかなり大がかりなものだ。


俺たちはついに下まで降りた。


すぐそこに出口。赤や黄色に揺れる光が入り込んでくる。


俺は右手でバラガムをおさえると、先にその出口からすっと顔を出した。


なんでぇ、こりゃ。


俺の目に飛び込んできたのは、あちこちのたいまつの光に照らされた巨大な地下祭壇(ちかさいだん)だった。

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