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ネイブルバの使徒たち



俺たちはエストスと別れた。


そして、この町に最初に来た時と同じようにまず町の広場に戻りそこから古道具屋に向かう。


”ビットリの古道具屋”の看板を横目に間口の広い店内に入る。


あれ、なんだか既視感(デジャビュ)だ。


声をかけると、最初と全く同じようにじいさんがカウンターに現れた。


俺は引きつった笑顔で元気よく声をかける。俺たちは騙されていないと心の中で念じつつ。





「いや~、さっきはどうもお世話になって」


「なんだ生きてたのか」


「はーははは、面白い冗談だ」


「で、何か買うのかい?」




んなわけねーだろ、このくそじじい! と言いたいのをこらえて俺は笑顔を絶やさないようにする。




「いやエストスとは話がついてね、ちょっと色々と聞きたいことがあるんだ」


「なんだ?」


「ルルイアという女性を探していてね」


「こら、その名前をこんなところでだすんじゃない、誰が聞いているかわからんぞ」




無表情だと思っていた、じいさんの顔にかすかな変化が見て取れた。


ほほう、なんだ、まずい話なのか。それはそれは。詳しく聞こうじゃないか。


俺はあえてもう一度その名前を大きめの声で口にする。





「行方不明なったルルイアを今から探しに行く」


「……ふうむ。お前たちはラトヴィア一族の回し者ではないという事だな?」


「あたぼーよ」


「とりあえず奥の部屋へきな」




ビットリはそういうとカウンターから出てきて隣の部屋へ俺たちを案内した。






ビットリは俺たちをテーブルに案内し椅子に座らせた。


周りは棚。棚の上には様々な道具が几帳面に種類ごとに並んでいる。


瓶や筆、折りたたまれたカラフルな布、何に使う物かはよくわからないが、眺めているだけでもどこかワクワクさせられる空間だ。


お店の奥の物置部屋ってなんか好き。俺がきょろきょろと見回しているとビットリがわざとらしく咳をした。


俺は慌てて視線をビットリに向ける。ビットリが口を開いた。




「で、何を聞きたい」




俺は単刀直入にきく。




「ディンブランの婚約者というルルイアの行方についてだ」


「ふうむ。ルルイアをさらった奴らの目星はだいたいついてる」


「さらった奴ら? ルルイアは誰かに誘拐されたってのか?」


「どこまで聞いてるか知らんが、この町にはラトヴィア家とオネンアス族の婚姻を良く思わない連中がすくなからずいる」


「それは聞いたよ」


「ここには”オネンアス族至上主義者”の武闘派集団がいてね。そいつらはラトヴィア家に限らず人間族を憎しみの対象にしている。オネンアス族の国家を作るという誇大妄想に囚われてるようなやつらだ」


「はぁ……なんだよ一体。随分ときなくさい話になってきたな……」



俺は腕を組んで背もたれに身を預ける。ビットリは続ける。



「そいつらは自分たちの事を”ネイブルバの使徒たち”と名乗っている。頭のいかれた連中さ」


「ネイブルバ……ってのは誰かの名前か何かか?」


「そうだ。その昔ラトヴィア一族とオネンアス族との戦いの最中に突如あらわれたという戦士の名さ。聞いたことないか、オネンアス族のたった一人の戦士がラトヴィアの騎士たちを蹴散らしたって話を」


「あぁ、そういえばそんな逸話があったような……」


「その戦士の名前が”ネイブルバ”だよ。オネンアス族の古代の言葉で戦神(いくさがみ)という意味の名だ」


「その伝説の戦士を使って自分たちを正当化しようってか? 無粋(ぶすい)な奴らだな」


「だが、残念なことにそれなりの効果があるんだ。最近仲間を増やしているようだ」



俺は聞いた。




「で、なぜそいつらがルルイアをさらうんだ?」


「単に婚姻の邪魔をしたいだけか、何か目的があるのかはわしにもよくわからん」





ビットリが言う”ネイブルバの使徒たち”という集団の根城は、ここから海峡を越えた孤島にあるらしい。


船でしか行けないという事だ。


しかしビットリはそこに行く事を勧めなかった。身の安全は保証できないという事だ。


いまや、ならず者の集団と化しているそうだから。ならずもの、はーいやな響き。


ビットリはさらに続けた。




「それにな、あそこの孤島は海賊がたまに出入りしている。最近はその海賊の一味ともつるんでいるようで、孤島の中は無法地帯と化しているそうだ。命の保証はないぞ」


「その孤島は一応ラトヴィア家の領土だろう、放置されているのか?」


「何度かラトヴィアの騎士団を差し向けたことがあるが返り討ちにあっている。なんでもえらく強いオネンアス族の戦士がいるって噂だ」


「うーん。潜入するにしても船がいるのか……手間をかけさせやがる」


「漁師のつてなら紹介してやれるが……たかがいち紋章師がなぜそこまでする必要がある」


「たかがいち紋章じゃねーよ。おれは呪いの紋章師だ」




ふ、きまったぜ。


ビットリは俺のキメゼリフを軽くながして話を続けた。




「ま、気をつけな。”ネイブルバの使徒たち”は人をさらって肉を食うって話だ」


「は、はーははは、面白い冗談だ」


「冗談ならいいがな、やつらは強制的に先祖がえりを図っている。あえて残酷なことをやろうとしている。死ぬよりもひどい扱いを受けるかもしれんぞ、生きたまま〇〇を抜かれたりな」



おえっぷ。


ああ、やっぱりオネンアス族の気持ちなんて絶対理解できない。このじいさんも嫌い。


やっぱ野蛮なんじゃないのこの人たちって。どこか不気味だし。サイコっぽいし。


俺はふと右隣にいるバラガムの顔を見た。バラガムは青い顔をしてうつむいていた。


ちょっと刺激が強すぎたね、ごめんね、おじさんのせいだわ。


この仕事は、少しばかり覚悟がいりそうだ。



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