絵かき仲間のエストス
話し終えた後、ディンブランはテーブルに手をついて立ち上がった。
と同時にぐらりと右に傾く、椅子にすわりそこねて床にへたりこんだ。
俺はあわてて立ち上がるとテーブルを回り込み、ディンブランの体を抱きおこした。触れた肩からも伝わるほどにあつい。
なんてぇ熱だ、こりゃ。こいつこんな状態で今までくっちゃべってやがったのか。
俺はディンブランの肩をちいさくゆする。
「大丈夫か!? お前さん、熱病におかされてるじゃねえか」
「……ルルイアをさがさなくては……僕が……いかなくては」
ディンブランはそういうとがっくりとうなだれた。
エストスの案内のもと俺たちは海辺の洞窟から抜け出して、エストスの住処へと向かった。
細い道沿いを歩き、石造りの小さな家に入り込む。奥の部屋にあったベッドにディンブランを寝かせて、俺たちは外に出た。
とにかく、ディンブランはいま動けそうにない。
俺たちは狭い路地で立ちどまり、エストスに目を向ける。こいつは一体どういうやつなんだ。
ちょうどディンブランと同じくらいの年齢だろうか。小柄ではあるが、服の上からでも引き締まった体躯がうかがえる。
薄茶の髪を頭のよこで編み込んで後ろにまとめている。
俺はたずねた。
「で、お前さんはディンブランとどういう関係なんだい?」
「俺とあいつは、絵かき仲間だ」
「そうなのか。じゃ、ひとまずディンブランは任せていいのか?」
「そのつもりだ。アイツの面倒はしばらく俺が見る。お前たちは?」
「俺たちはディンブランの婚約者というルルイアを探してみるよ、なにか手がかりはないのか?」
「さぁ、ルルイアの家くらいならば教える」
このエストスという男。
なんだかさっきから妙に矢継ぎ早に答えやがる。まるで感情が読み取れない。絵描き仲間といいながらディンブランの事を心配してる感じがしないんだよな。ま、これがオネンアス族の特徴的な話し方なんだろうけど。
俺は聞いた。
「ほかになにか情報をくれそうなやつはいないのか? 俺たちはこのあたりの事情に関しては無知でな」
「古道具屋のビットリのじいさんならば色々と知っているだろう」
「ビットリのじいさんって俺たちをだましたやつか?」
「別にだましてはいないだろう」
「え?」
エストスは眉一つ動かさず、俺をじっと見ている。やっぱオネンアス族って無表情でなんかつかみどころがない。妙に淡々としゃべる。
で、何なの、このエストスのにごりのないまなざしは。
う~ん? わからん。俺たちは別に騙されてはないのか。いや、俺の感覚では騙されたとおもうのだが。
オネンアス族の感覚では違うのかもしれない。それとも、いまのはオネンアス流ジョークなのかな、笑うとこなのかな。
あ、もう深く考えるのや~めよっと。
俺はルルイアの家の場所を聞き、ひとまず古道具屋のビットリのじいさんに会いに行く事にした。
俺とバラガムは古道具屋に向かう。
狭い道を歩きながら、隣のバラガムが心配そうな声を出す。
「ウル殿、本当にさっきの古道具屋のじいさんに話を聞きに行くのですか? あんなじいさんの話なんてあてにしていいのでしょうか」
「しゃーねーだろ、ほかにツテがないんだから。それにエストスに言わせれば、俺たちは騙されてないらしいから」
「なにわけわかんないこといってるんですか。ウル殿は砂浜に誘導され殺されかけ、ワタシは眠り薬をのまされたのですよ?」
「バラガム、お前もオネンアス族の気持ちになって考えるんだ」
「オネンアス族の気持ちになって?……で? それで一体どういう結論になるんです」
「俺たちはだまされてない」
「もうっ! 適当な事ばかり言わないでくださいっ」
「おめーは、ぴーぴーうるさいんだよ。でかい図体の割には小さい事をグダグダと」
「小さい事? あーもう。エリヤナのいう事なんて聞くんじゃなかった」
「ま、いいからいいから、お前さんはとにかく斧を振り回してりゃいいの」
「なんですか、そのいいかた。人をうすら馬鹿みたいにっ」
バラガムはぶつぶつ言いながら少し距離を置いて俺のあとをついてくる。
ったく、これじゃ俺とキャンディだけで来た方がまだましだったぜ。
胸もとのポケットからキャンディがちらっと顔を出す。バラガムに聞こえないように小さく話す。
「……ちょっと、ウル。バラガムはどうするのよ」
「あいつに単独行動はさせられん。何をしでかすかわからんからな」
かといって帰らせるわけにもいかん。
バラガムは戦力としては貴重だ。とりあえず何かあった時の爆発力は期待できるが、一人で何かをさせるのはやめておこうかな。