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婚約したそうです


俺たちは牢獄から出されて、うすぐらい廊下を抜ける。階段を上がり小さな石壁の部屋に通された。


今にも崩れそうなこげ茶色のテーブルをはさみ、俺とディンブランは向き合って席についた。すぐそばから波の音が聞こえる。どうやらとても砂浜が近いようだ。


ディンブランの後ろには、ディンブランの手をひいてきた機敏そうな男が腕を組み、険しい顔で突っ立っている。


で、俺の後ろにはちょっと抜けてるが斧の紋章師バラガムが腕を組んで陣取った。


俺はたずねる。




「ここは?」


「砂浜のすぐ近くにある洞窟さ。その中にある監獄だよ」


「はぁ、最初っから俺はここに誘導されてたってわけか。あの古道具屋のじいさんとんだくわせもんだな。俺もバラガムも両方ともあのじいさんのウソに乗せられたってことかいな」


「でも、それはお互い様だよ。君はアーノルドなのかい? それともウル?」


「え?」


「気が付いてないのか。君がアーノルドって名乗ったそばから、そこの彼……バラガムだったか。彼が君の事をウルどのってずっと呼んでいたよ」


「ははは……そうだっけか」




俺は首をまわして後ろのバラガムをわざとらしく見る。しかし、バラガムはいったい何のことだというそぶりを見せた。


ま、確かにバラガムには俺が”アーノルドと名乗る”という取り決めの事なんて話してないからな。


俺はディンブランに向き直り名乗った。




「もうお互いに嘘は無しだ。俺は呪いの紋章師ウル。お前さんの妹、エリヤナに頼まれてお前さんの呪いを解きに来た」


「なるほど、最初は父の差し金かと思ったけど、ここまでたった二人で僕を追って来たということは信じてもよさそうだね」



その時、胸元のキャンディが付け足した。




「ちょっと! アタシもいるんだからね!」




ディンブランは肩をビクッと震わせたあと、静かに笑いこういった。




「そうだね、ごめんよ、ウサギさん」





俺は本題に入った。




「とにかく俺の今回の仕事の依頼主はエリヤナだ。お前さんの呪いを解いて報酬をもらう。ただそれだけの話さ。だからお前さんの事情を話してほしい。呪いを解くには真実を知る必要がある」


「真実か……これは僕たちラトヴィア家の問題なんだけどな。おいそれと他人に話せるような事でもない」




ふうむ。やはりかたくなだな。コイツから話を聞くにはもう少し何かが必要だ。


しかし話の通じない相手ではない。俺は自分の事を話すことにした。それでコイツのこころが動くかどうかはわからんが。




「お前さんは南の大貴族ラトヴィア家。そしてな、俺はウル・べリントンってんだ。光の大貴族べリントン家っていったら聞いた事ぐらいはあるだろう?」


「べリントン家? ”エインズマスターの称号”を持つ宮廷魔術騎士団長、アルグレイ・べリントンを輩出したあのべリントン家?」


「そうだ。その立派な肩書を持つ男はな、じつは俺の父親なんだ。そんな人間を親に持つと苦労するぜ、ほんと」


「べリントン家に呪いの紋章師がいるだなんて話は聞いたことが無いけれど」


「随分前に縁を切られたからな、俺は”いないやつ”なんだ。父親の期待に沿えなかったんだろうな。今となっては大したことじゃないが」


「……そんな話で、僕の同情をかおうと?」


「そうだ、悪くない作戦だろ?」





ディンブランはすこし間を置いてから、小さく笑った。





「ふふ……そうだね、悪くない。わかったよ。ならば、僕もはなそう」


「よし! そうこなくっちゃな! だが安心しろ。俺が仕事上で見聞きした話は他言しないぜ、だからお前さんも俺がべリントン家の人間だって事はいいっこなしだ」




ディンブランはすっと後ろを振り返る。後ろの男に告げた。





「だそうだよ。エストス。彼がべリントン家の人間だって事は誰にも言わないでね」




エストスと呼ばれた男は返事をせず、ため息で返した。ディンブランはそのため息で納得しのか、ゆっくりとうなずいた。


そして俺に向き直り、いきなり話した。




「僕はね、ここにいる先住民族である海小人族(オネンアスぞく)の末裔の娘、ルルイアと婚約したんだ」


「……え~っと? え? なに?」




俺はあまりにも唐突すぎるディンブランの告白に、あたまが追いつかない。

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