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数十年ぶりの兄との再会はあっけないもんだった

城の中に入り込み、しばらくエリヤナの背中についていくと、目の前に大きな扉。


その前に兵士が二人。エリヤナが兵士に話しかけると、兵士たちは扉を開いてくれ中の部屋に入り込んだ。


見上げる高い窓から光が差し込み、ほこりがキラキラと舞っているのがうっすら見てとれる。


奥の中央の椅子にはどっしりと腰を降ろした男。おそらくこのラトビア家の当主だろう。その隣に真っ赤な制服姿の背のたかい男の姿。


あの真っ赤な制服は宮廷魔術騎士団の正装だ。さっき城門前でエリヤナの護衛部隊のはなしていた”副隊長”とかいう奴か。


副隊長らしき男はこちらに向き直り、開口一番こういった。




「お待ちしておりました、しばらく寄り道をされるときいていたので心配しておりました、エリヤナ様」




あら、逃げたことは無かったことになってるんだな。先回りしてエリヤナの父親の方に根回し済みか。


でも、なんかこの声、どっかで聞いた事があるような。


俺はエリヤナの後ろから徐々に前に進みながら、宮廷魔術騎士団の副隊長、とやらの男の顔をみる。


声だけじゃなく、顔もどこかでみたような。白銀のおかっぱ頭に鼻持ちならない嫌味っぽい声。




「……ぇええ……もも、もしかして……」




俺はぐっとあごを引いた。視界はほぼ床。


間違いない、間違いない、まーちがいない。アレは、あの男は俺の兄、アッサム・べリントンだ。


年相応に、目じりにしわが刻まれ、首の周りが丸くなった顔にはなっているが、絶対に間違いない。


なんであいつがこんなところに。俺は肩と頭を限界まで縮こまらせる。さらにエリヤナの背中のうしろのはまり込む。


小声でいった。




「……おい、エリヤナ、まずい……俺のちょっとした知り合いがいる」


「知り合い? アッサム様と知り合いなのですか?」


「知り合いも知り合い、ド腐れ縁だ。いいか、俺の名前はアーノルドだ、アーノルド、いいか、わかったな?」


「あ、アーノルドさん……ですね。わかりました」





エリヤナが声を発する前にアッサムがこちらにけん制をかけてきた。




「いい気分転換になりましたかな? 部下たちからお話は聞いております」


「ええ、ありがとうございます」


「それはよかった……後ろの御仁は……?」


「え? あぁ? こちらは下働きのアーノルドです」


「下働き? そのようなものをこのラトヴィア卿のお部屋に通してしまっては……」


「いいのです、父は寛容なので。ね、お父様」




その後、何かごにょごにょとエリヤナが話した後、俺たちはその部屋を後にした。


アッサムは俺に全く気が付かなかったようで一度も何かを言って来ることはなかった。


どこかむなしいような、納得するような、何とも言えん気分だが。


俺は部屋から遠ざかるなり、エリヤナに聞いた。




「あいつがお前さんの護衛部隊なのか?」


「ええ、最近はずっとアッサム様の護衛を受けています、知り合いというのは……?」


「いやぁ、あいつは俺の兄貴なんだ」


「えぇえ!? お兄さま!? と、ということはウルさんは、べリントン家のお方なのですか?」


「追放されたからもと兄貴というほうがいいか。それに、もとべリントン家だ」


「追放された? いったいなぜ」


「ま、そんな事はどうでもいい、アイツと顔を合わせながらの仕事は無理だぞ」


「大丈夫です、あの方たちの護衛任務は王都とこのラトヴィア家の往復のみですから、ほどなくここを去ります」


「ほっ、それならいいが……」




そのとき、エリヤナがクスクスと声をおさえて笑った。




「な、なんだよ」


「いえ、だって。ウルさんがあの光の大貴族と呼ばれているべリントン家の一員だったなんて」


「へっ、どうせ俺はべリントン家にふさわしくねーような男さ」


「いえ、そういう意味じゃありませんわ。なんだかとても、腑に落ちたのです」


「どういう意味だい?」


「もうし訳ないとは思いつつ、私ウルさんの書庫にすこし入らせていただいたことがあったんです。山小屋の中にあれほどの蔵書があるだなんて変だと思っていたんです。だって、田舎の村人の持ち物ではありませんでしたもの」




エリヤナはそういうとまた小さく笑った。そのあとエリヤナは客間に俺を通してくれた。


小さな部屋ではあったが、小奇麗な棚や寝台がならんでいる。しばらくはここが俺のすみかになるようだ。


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