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盲目の呪い !改稿中!



さて



視点はふたたび主人公ウルに戻ります。




ではでは……。







「ウル様、朝食ができましたよ」



輝く雲の隙間から舞い降りる天使の声。

俺はその優しい声に、眠りの底からするすると引っぱり上げられた。



「……んほ、いにおいだな……」



俺の鼻先を包みこんだのは、香ばしいスープのかおり。

薄く目を開けるとそこは天国。

ではなく、いつものしなびた天井。あちこちに雨漏りの痕が染みついた古びた梁。




「天国じゃなかった……」



俺は、はたと今俺の耳にとどいた天使の声の主を思い返す。

むくりと体を起こして立ち上がると周囲を見渡す。

床にはほこりをかぶった魔術書の数々が雑然と並んでいる。俺はその本の隙間をぬって書庫の扉を開けると、居間に進んだ。




そこにはテーブルの上に皿をならべる可憐な乙女の姿。

エリヤナ・ラトヴィアは、こちらに視線を向けてニコリと笑った。




「あら、ウル様おはようございます」

「さま、はやめてくれ。こそばゆくてかなわん」

「でも、呼び捨てにするわけにはいきませんわ」

「だから何度も言ってるだろう。さん、でいいよ、さんで」



エリヤナは悪戯っぽく微笑むとちさくうなずく。



「さん、ですね、わかりました。ではウルさん。山菜のスープとパン、早朝にとれた野イチゴを村のかたから分けていただいたので、召し上がってください」

「別にこんな事してくれなくても結構だよ……俺には俺の生活のペースってもんがあるんだから」

「とか言いながら、きちんと起きているではないですか」

「そりゃ、そんな匂いをさせられたら腹がなるだろ」

「早起きというのはいいものですわ。さ、キャンディちゃんも」



どこから現れたのかキャンディがぴょこんとテーブルにのっかる。  



「ていうか、コイツは飯なんかくわんだろ、ぬいぐるみなんだから」




キャンディは俺のからかいのセリフを無視して、テーブルの上を無言のまま、チョコまかと動きまわっている。

にしてもキャンディの奴、最近やけに無口なんだよな。

それに、以前にもまして眠りの時間が多くなっているのが、気にかかってはいるのだが。




「ふぅ……」




俺は見慣れない朝の食卓の風景に小さくため息をついた。

テーブルの席に座ると、小さく手をあわせて食事に祈りをささげる。

目の前のエリヤナも丁寧に祈りを捧げていた。



切りあがった眉にどこか意志の強そうな小さな口元。

そして緑がかった雲のような髪の毛。”見た目”は天使なんだがな。



で、どうして俺がこのエリヤナと朝飯を食おうとしているかっていうとだな。

俺はエリヤナとの出会いを思い返す。







”あの時”だ。


俺が、宮廷魔術騎士団を追いはらい、家に戻ったそのあと、キャンディの奴がエリヤナを家に連れてきやがったのだ。


エリヤナはどうやら俺を探していたらしい。

この辺りに呪いを解ける”呪いの紋章師”がいるという噂話を聞きつけたようだ。

俺はパンをかじりながらエリヤナにたずねる。




「なぁエリヤナ。俺を探してるんだったら、別に護衛から逃げ出さんでもふつうに訪ねてくればよかっただろ?」

「私だってそのつもりでしたわ。それなのにあの護衛の連中ったら、寄り道は許さないなんて啖呵を切るものですから、腹が立ってしまって」

「おまえさん、宮廷魔術騎士団の護衛を振りきるだなんて事をしたら、あとで大事になるぞ?」

「なりませんわきっと」

「どういう意味だよ」



エリヤナは口もとをとがらせる。



「事をおおげさにしないように、きっと私が逃げたことを隠しますよ。男というものは、そういうものです」




なんだかエリヤナが”男”という言葉を発するとき、そこにありったけの棘を含ませているように聞こえる。

エリヤナがパッとこちらを見つめる。




「で、いつ出発するんですの? 私の家に」

「ちょっと待ってくれ。俺のようなおっさんにはだな、心の準備も体の準備も必要なんだ。お前さんの依頼は兄ちゃんの盲目(もうもく)の呪いを解くことだろ。呪術関連の資料と、呪具をもってかなきゃならんのだ」



エリヤナは目の前のイチゴをひとつ手にとり、ちいさくかじりながら、不満そうな目をむける。



「そんなこと言って……あれから3日も経ちますわ」

「今日出る予定だよ」

「ほ、ほんとですか!?」




エリヤナはパッと立ち上がり、両手を前に組んで「やったぁ!」と飛び上がった。

俺はその姿をみてなんとも複雑な気もちになる。



なんたって、ここから、エリヤナの家があるというラトヴィア領までは遠いのだ。

俺はその道のりを考えて頭が痛くなった。

それになんだか宮廷魔術騎士団から逃げ出したというのはどうも気にかかる。

こいつが護衛されていた理由もまだ詳しくは聞いていないし。

俺は無邪気に喜ぶエリヤナを見上げた。



「なぁ、エリヤナ」

「はい」

「お前さんが宮廷魔術騎士団と一緒にいた理由ってのを聞いてなかったが」



エリヤナは「あら、そうでしたっけ」と言いながら、こともなげにこう告げた。




「私、特殊紋章師なんです」




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