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ウルの実の兄、アッサム・べリントンの事情 ① 



さて、ここで少し、視点がうつります。


ウルの実の兄、アッサム・べリントンへと。



それでは・・・・。



宮廷魔術騎士団の副部隊長に任命されてからというもの、部下たちからのくだらない報告の数々に時間を食い潰される日々。

その中から自分で解決すべきもの、隊長に報告をあげるものを選び取り選択していかなくてはならない。

そのくだらない報告の中でも、今聞かされた報告はとびっきりに最低だった。



「なんだって?」

「は……で、ですから……」



俺は自分の執務室の机に両手をついて椅子からゆっくり腰をあげる。

俺の右手は自然に握られる。

しかし、今の俺のこの感情は、そんなことでひねりつぶすことができない。


俺は机を回り込み歩く。

こいつはどんな顔で今の報告をしたのか見てやろう。

男はまっすぐ前を向いたまま、青い顔をしている。




「……もう一度」

「は……我がグリフィン部隊は”特殊紋章師”エリヤナ・ラトヴィア護衛任務中でしたが。ジャワ渓谷近辺の村で……彼女を見失いました」




次の瞬間、俺は気がついたら男の左頬に思い切り右拳をぶつけていた。

男の体は大きく仰け反った。しかし、男はすぐに体勢を立て直し耐えた。

切れた口元から血を滴らせながら、男はしずかに謝罪した。




「も……申し訳ありません」

「どいつもこいつも、俺の足をひっぱりやがる」

「ただ今、つ……追跡中です」

「よりにもよって”特殊紋章師”を取り逃がすとは前代未聞だ」



そいつはオウムのように繰り返す。



「も、申し訳ありません」

「おい、この話は他に漏らしてはいないだろうな?」

「はい。知っているのは、護衛にあたっていた部隊員3名とわたくし、そしてアッサム副隊長のみです」

「このことは秘密だ。貴様も追跡にむかえ」



男はくるりと背中をむけて扉に向かい、最後に一礼して部屋を出ていった。

俺は机に戻り、椅子に深く沈み込んだ。




「はぁ、なぜこんなに無能どもばかりなのだ……宮廷魔術騎士団にいるのはこの国から儀式によって選りすぐられた優秀な紋章師たちではないのか、それが女ひとり満足に家に送り届けることもできんとは」




俺は椅子のひじ掛けにもたれかかり、エリヤナのあの強いまなざしを思い浮かべる。



「……気に喰わん女だ」



南の大貴族ラトヴィア家長女のエリヤナ。この国のいっかくを担う大貴族ラトヴィア家。我がべリントン家よりも少し格は落ちるものの侮れない一族だ。

普通は、大貴族の女子が『天資の儀式』など受けんものだが、時々エリヤナのような男勝りの女が現れるそうだ。


エリヤナが儀式で得た紋章は”(うつわ)”の紋章だ。彼女は”うつわの紋章師”なのだ。

そして、その紋章の効果はいまだ不明。


そのため宮廷紋章調査局からの特命で彼女には護衛と監視が付けられている。彼女には定期的に調査局への出頭が義務付けられているのだ。


その帰り道での今回の失態。このような事、俺の父にでも知られるとまずいなんていうものではない。

父は恐ろしい、自分の期待を裏切るものを容赦なく断罪する。

俺の弟、ウルにしたように、俺にもその断罪の刃がむけられるだろう。


「大丈夫だ、きっとすぐに見つかる。見つかればそれでいいのだ、何もなかったことにすればいいのだから」



俺は自分に言い聞かせるようにつぶやく。

今は次のグリフィン部隊の隊長がだれになるかの選出の時期なのだ。

俺の他にもグリフィン部隊には副部隊長が3名いる。


そいつらを出し抜かねばならん。こんなところでこのような失敗をするわけにはいかんのだ。



____ジャワ渓谷。


ここから大馬ならば数日程度、遠くはない気もするが。


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