呪具『ひねりつぶしの籠手』★
さて、ここからは三章になります!
よかったらどうぞ!!
ではでは!
俺は呪いの紋章師、ウル・べリントン。何を隠そう、おっさんだ。いわゆるおぢだ。
最近、俺は新たな呪いの魔術の研究に時間を費やしている。
最近暇だし、ほかにすることも無いし。
俺は”弓の紋章師”ベルアミに時間をもらい、この実験に付き合ってもらっている。
そう、これは実験、人体実験。
実に淫靡な響き。いけないことってなんだか興奮するとはおもいませんか。
暑さ和らぎ、ふく風が肌に心地よくなってきた、今日この頃。
俺は村はずれの河川敷にベルアミを呼び出していた。
ベルアミはどこか不安げな表情でこちらを見つめた後、不服そうなため息をついた。
ベルアミは、背中からはがした弓をぐるりと前に回し。
弓束を右手に、ひだりに持った矢を横にあてた。
そして、指でサラリと矢羽根をなでた。
ベルアミは俺に背をむけると、弓矢をいったん天に掲げた後、すっと前方に身構えた。
無駄のない流れるような動き。
ベルアミは弓を構えながら、口をひらく。
「いったいなんでさぁ。ウルの旦那、いくら俺が弓の使い手といったって、こんなところから向こう岸の木になんて届きませんぜ。普通の弓じゃ限界ってもんがありまさぁね。魔光器(魔術の武器)でもあるまいし……」
ベルアミは、かすれた声でどこか不安定な言葉を並べる。
ふうむ、こいつはしゃべると途端にバカっぽくなるから、実に残念な男だ。
俺はそんなベルアミをさとす。
「呪具っていうのはな、その限界すら超えていくんだよ」
ベルアミの矢の狙う先はどこか。
幅の広い川を挟んで遥か向こう岸にある、一本木の幹だ。
ベルアミは片眼をつむり、徐々に弦を引きしぼる。
俺はちょうどベルアミのまうしろに立ち、ある籠手を右手に装備した。
ご想像の通り、この籠手は呪具だ。
とあるオーク族の戦士の呪いがかかった籠手。
この籠手を装備すると、岩をも砕くオーク族の戦士並みの剛力が手に入る。
俺は息を一つ吸い込んだ。
スキル『呪具耐性』の発動だ。
俺は呪具拝借の呪詞を唱えた。
―――――――――
天地万物 空海側転
天則守りて 我汝の掟に従う
御身の血をやとひて 赦したまえ
―――――――――
呪具:ひねりつぶしの籠手 名もなきオーク戦士の残した銀製の大きな右籠手
効果:竜の頭蓋を軽々とひねりつぶせるほどの剛力が手に入る
俺はおもむろに籠手に手を通す。
サイズが全く合わない、ぶかぶかで手を降ろせばするりと地に落ちてしまうほどだ。
が。今サイズは関係ない。
俺はたて続けに、次は左手で印をつくり唱える。
スキル『のろいがし』の発動だ。
―――――――――
天地万物 空海側転
天則守りて 我汝の掟に従う
依代 辿憑て 汝血を 寫さん
―――――――――
籠手を装備していた、俺の右手に少しの違和感がうまれた。
俺はベルアミにたずねる。
「どうだ、ベルアミ。右手に何か感じるか?」
「いんや、なんにもかんじませんぜ」
「おかしいな……俺の剛力の呪いが、いまお前にうつってるはずなんだが」
「別に力がつよくなったきもしませんが、射ますぜ?」
「はぁ……また失敗か?」
ベルアミは「よっ」と軽く声を上げ、引き絞っていた弦からパッと指を話した。
途端、ベルアミの手元からごうっと風が起こったかと思うと、ベルアミの慌てた声が聞こえた。
ベルアミは顔から吹き飛ばされ、バランスを崩して倒れ込んだ。
ベルアミの手から放たれた矢はあっという間に見えなくなった。
矢の軌道をおうように、川の水面がざざっと波打つ。
次の瞬間、向こう岸の木が一本、音を立ててズシンと倒れた。
呆気にとられた、ベルアミは砂利に手をついたまま、腰を抜かしている。
「せ、成功か!」
俺は思わず叫んだ。徐々に実感が湧きもう一度繰り返す。
「成功だ! ベルアミ! ついに成功した! ”のろいがし”の呪法の完成だ!!」
ベルアミは何も言わずただぽかんと口を開けて背中越しに俺をみあげた。
俺は右籠手を装備したまま、ベルアミに手を差し伸べ、目を丸くした奴を片手でひょいと抱え起こす。
ベルアミは俺と向こう岸を交互に見ながら言った。
「い、いったい、な、なんですかい?」
「のろいがしだよ。俺が装備した呪具の効果を、一時的にお前に移したんだよ」
「ほ、ほえ~……」
ベルアミは目を何度もぱちくりさせながら足元の弓を拾い上げ顔の前に持ってきた。
その弓の弦はみごとにブツリと切れていた。