いのちを奪い返してやれ★
右端の男を震える手でなんとか指さすココナ。
俺はもう一度、念を押す。
「……あいつで間違いないか?」
「うん……右の頬にばってんの傷があった。ハッキリと、思い出したよ」
俺は右端の男を睨みつける。なるほど確かに。こけた頬に、赤黒い十字の傷が浮き上がっている。
男はその手に青白く輝く大剣を握りしめ、こちらに射抜くような視線を向けている。
「いいか、ココナ。他の二人はベルアミとトトが片づける。お前はあの一番右の頬傷の男だけを見つめて、頬傷の男だけを倒すことに集中しろ」
「うん」
「自分の命を奪った奴だ。容赦するなよ。防御は任せろ、アイツの攻撃は俺が全部、払い落とす」
俺は自分の腰にかけていた銀の短剣をココナの両手に握らせた。
ココナは震える両の手でそれをしっかりと握った。
俺は小さく檄を飛ばす。
「自分の命を奪ったやつを。自分を殺した奴を、殺し返してやれ」
「うん」
「お前の罪は、俺が背負ってやる」
「うん」
スキル『呪具耐性』の発動だ。
俺は呪具拝借の呪詞を唱えた。
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天地万物 空海側転
天則守りて 我汝の掟に従う
御身の血をやとひて 赦したまえ
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呪具:まもりの双剣 ある僧兵の血肉が混ざった両刃の短剣、対となる二本
効果:大地の防御 相手の攻撃をほぼすべて地面に払い落とす
俺は身構え、ココナと共に右の男に向かって走り出す。男は瞬時にこちらの動きに気が付いたようだ。
男は輝く大剣の魔光器を両の手で握りしめると鬼のような気迫をまとい向かい来る。
距離は一気に縮まる。
次の瞬間、男の大剣は俺の右肩めがけて振りぬかれた。
俺は、まもりの双剣を十字に交え、相手の剣先を包むように受け止める。
するりと鍔まで滑らせ、鍔元で素早く手をひねり、男の剣の軌道を変えてそのまま大地に逃がした。
男の大剣は地面にドスッと突き刺さる。
俺はありったけの声で叫ぶ。
「ココナ、いまだ!」
男が怯んだ表情で顔を上げた瞬間、そのがらあきの喉に、ココナが手にしていた短剣がズブリとめり込んだ。
俺はまもりの双剣から、ぱっと手を放しココナの手を上から包み込む。
そしてココナと共に男の喉笛を真横にかっ切った。
血しぶきが乾いた空気に飛び散る。
男は目を見開いたまま、断末魔の声をあげるもなく、一気にその場に崩れおちた。
そして、動かなくなった。
勝負はいつも、一瞬で決まる。
俺にの手に包み込まれた、ココナの小さな手は小刻みに震えていた。
俺はその震えを抑え込むように、さらにぐっとココナの手を締め付けた。
しだいに、ココナの手の震えは小さくなり、そして消え去った。
「ココナ。お前は自分の恐怖と向き合って、そして打ち勝ったんだ」
「うん」
あとは、ココナの呪いを解くだけだ。




