魔光器ってなんですか
トトは素早く裏口につめより小声で名を聞く。
確認が済むと、すっと扉を開け訪問者を招き入れた。
扉をくぐりぬけて、こちらに顔を向けたのは荷物集配人のベルアミだった。
背に弓を背負ったベルアミは、俺たちを見つけると立ち止まり、目を丸くする。
そして、不思議そうに声を上げる。
「あれ? こりゃ~、勢ぞろいで」
今や見慣れたその禿げ頭に、俺はどこか安心感を覚えた。
そして、その意外な訪問者に問いかける。
「どうしたんだベルアミ。まさか、お前さんが、この屋敷の裏口から現れるだなんて」
「いやね、ウルのだんな。なにやらこの村の周辺をかぎまわってるあやしげな連中がいましてね、ちょいと気になって、さぐってたんでさぁ」
「それで、何かわかったのか?」
ベルアミは落ち着く間もなく、慌ただしく告げる。
「何かわかった、というより。その連中、今からこのトトのあねごの屋敷に来ますぜ。だから前もってしらせようとおもいやしてね」
「もう来たか……」
「数は3人。厄介なことに、おそらく、やつら”戦士系の紋章師”ですぜ。身のこなしがちがいやす」
思ったよりも連中の動きが早い。
この国に侵入するや否や、あっという間にトトのこの屋敷に目をつけるとは。
もはや、今さら隠れていても仕方がない。
奴らが何者だろうとここで迎え撃つのみだ。
ベルアミは”弓の紋章師”だ。
こいつは、戦士系の紋章師。俺と同じく見た目は実に冴えない痩身の男だが弓使いとしての実力はなかなか侮れない。
そして”死霊の紋章師”トト。
死霊魔術を操る女。その気になれば死者の軍団を率いて宮廷魔術騎士団の一分隊程度ならば一人で蹴散らすほどだ。
俺は部屋の隅でおとなしく座っていたココナに向き直った。
俺のその視線に気がついたのか、ココナは手すりを握りしめて、ゆっくりと体を押し上げ立ち上がった。
そして意を決したように、小さくうなずいた。
「ココナ、おそらくお前を殺したであろう奴がここに向かっている。一緒に戦えるか?」
「……うん」
「よし、お前は俺と一緒にこい」
俺たちは、それぞれの武器を手に取ると部屋を抜け、正面扉から表に出向いた。
開けた視界、庭の向こう。ベルアミの言う通り、三人の男が柵を越えている姿が目に映る。
男たちはまるで遠慮する様子もなく、我が物顔でトトの屋敷の庭に入り込むと、ズカズカと進む。
その時、奴らの足が止まった。
互いに顔を見合わせた後、やつら全員が、俺の足元にいるココナに視線を集中させたのがわかった。
そのうちの男の一人がこちらを指さし驚きに満ちた声を上げる。
「あのガキみろよ。あいつ、喉に剣をぶっさしてころしたガキじぇねえのか?」
「馬鹿な。似たような金髪のガキはいくらでもいる。俺たちの目的はガキじゃねぇ、女を連れ帰ることだ」
「しかしよぉ、こいつら何なんだ。俺たちに喧嘩でも吹っかけてきそうなツラしてやがる。ま、ちょうど退屈しのぎにいいか」
奴らは偉そうな態度で口々にそういうと、手のひらを頭の上にかざした。
すると、奴らの手の上に、光が集まる。
そして、その手に光り輝く”魔光器”(魔術の武器)が浮かび上がった。
俺たちの間に緊張が走る。
やはり、奴らは皆、俺たちと同じ”紋章師”だ。しかも全員が戦士系の紋章師。
魔光器という反則級の武器を自在に操る生粋の戦士だ。
俺は体の前に立たせていたココナの耳元に口を寄せ、ちいさく聞いた。
「ココナ、怖いか? 自分を殺した男たちと対峙するのは」
「……コワイ。さ、さっきから、からだじゅうが震えてる……」
「そうか。だが恐れは恥ずべき事じゃない。恐れてもいい。大事なのは、恐れから逃げない事だ。じっと睨みつけろ。あの三人のうちお前を殺した奴はどいつだ?」
ココナの息が乱れ始める。
俺が手を置いている両の肩はガクガクと震えている。
それでもココナは何とか地に足をひっつけて踏んばっている。
そして震える指で一番右の男をさした。