俺たちはエインズ王国に住んでいるんだ★
ココナの寝息を確認した後、俺は寝室の扉をあけ放ったまま、隣にある書庫の部屋に入る。
そこに、薄い毛布を敷いてゴロンとねころび天井を仰いだ。
「はぁ……さすがにココナに色々聞くには早いかもな。自分の母ちゃんを亡くしちまった直後だ。すこし時間を置くか」
俺は少し急ぎ過ぎていたさっきまでの自分を戒める。
トトの話じゃ、あの母ちゃんの亡骸は腐敗の進行が極端に遅い(または進行していない?)らしいからな、まだまだ時間はある。
「あ……そういえば、この書庫にはいくつか歴史書もあったっけ」
俺は再び体を起こしてそこらに山積みになっている本をゴソゴソとあさった。
まさか、この年になって歴史のおべんきょするハメなるとは。
俺はエインズ王国の歴史書を見つけ、パラパラとページをめくる。
まず、俺たちが住んでいるのがエインズ王国だ。
この国は王の下に”七人の大貴族”と呼ばれる領主たちがいる。
その七大貴族たちが、王からそれぞれの土地をまかされ統制・管理している。
ルルコット家やべリントン家を筆頭に7つの名家とよばれる一族がいるのだ。(あ、俺もいちおうべリントン家の一人なのよ、父親にいらねっていわれて勘当されたけど)
この統治の仕方は七貴一王制度とよばれている。
国の重要な政を決める場合には、王と7人の貴族たちによる評議会での決定が最終的な決め手となる。
その評議会の名は『八頭評議会』。
しかし、かつて、この評議会は『九頭評議会』だったのだ。
そう、アラビカ公国もかつてはその大貴族のうちの一つ、アラビカ家だったのだ。
あるときそこからアラビカ家が抜けたという過去がある。エインズ王国とアラビカ公国にはそういう因縁があるのだ。
百数十年前、当時のアラビカ家の領主が突如、エインズ王国からの独立を宣言したのだという。
以降、彼らは”アラビカ公国”を名乗り自分たちは主権を持つ独立国家であると主張しはじめた。そして九頭評議会からの離脱を図った。
当時の王と他の貴族たちは、彼らの主張を退けるか認めるかで紛糾したそうだが、結局は独立を認めることとなったようだ。
アラビカ公国の独立を認めざるをえなった大きな理由の一つに、地政学的な理由が挙げられている。
もともとアラビカの土地は地理的にすぐれており戦争となればかなり有利となるだからだ。
周囲は渓谷と山脈に囲まれ、そして残りは海洋。
自然の要塞ともよばれるほど防御に適した土地なのだ。
さらにその地では貴重な鉱石がとれるゆえ、鉱石技術も進んでいた。
強力な武具の作製が可能だったという。
その代表となるのがミスリル系の武具や装飾品だ。
要するに、アラビカ家はその土地柄、他の貴族達よりも頭一つ抜けていたってわけだ。
そういった地政学的要因のほかにも様々な政治的な判断が絡まり合った末に、当時のエインズ国王はアラビカ公国との武力衝突を回避する方向へと舵を切った。
そして、ついに独立を認めた。
ここからは、すこしきな臭い話になる。
公的にはみとめられていない話ではあるそうだが。
当時のアラビカ家の領主に独立を提案したのが、ひとりのエルフの重鎮だという噂だ。
エインズ王国からの独立に際しては、当然のごとく、アラビカの家の一族内でも、賛成派と反対派にわかれ論争が巻き起こった。
その論争は、最終的に家族間での殺し合いにまで発展してしまったとも言われている。
ただ、この話に関しては。どこまでが事実かは不明だ。
こういう話は尾ひれがつくし、ときの権力者によって都合のいいように書き換えられる。
俺はふとココナの耳を思い出した。どこか尖っているようにも見えるあの耳。もしもアイツにエルフの血が流れているとしたら。
いったいどういうことになるんだろう。
そんなことを考えているうちに、俺はずるずると眠りに滑り落ちた。